Vol.133|これからの照明は何が売れるのか?

照明における“属性順位の転換”
投稿日:2018,01,18
画像出典:favcars.com トヨタ ソアラ 2800GTエクストラ ’81

照明デザインの未来予想

明けましておめでとうございます。 本年もこのブログ「光のソムリエ・プルミエール」をどうぞよろしくお願いいたします。 今回は新年にふさわしく照明のこれからについて考えてみたいと思います。未来を知るためには、これまでの過去の出来事を知り振り返ることが肝要だと思うのです。この新年にふさわしい大きなテーマを切り開くために、ちょっと前に読んだ日経MJの面白い記事が大いに参考になると思います。それは、「属性順位の転換」というものでした。ちょっと難しそうな内容に見えますが、新年のスタートとしてお付き合いくださいませ。



人々のニーズは変わる

記事は80年代から10年ごとに各年代の国産車のトレンドをたどるものでした。過ぎ去ったそれぞれの時代で人々の生活の価値観が変わり、それに伴って「良い車」の定義も変わり、絶対永続的に良いという物はないと記事は説明します。

まずは1980年台、当時人気だったのが、トヨタの「ソアラ」(上記写真)という見た目もラグジュアリーな2ドアの大き目のクーペでした。その後の1990年台に入ると、日本はまさにバブル期に突入していました。この頃は「ハイソカー」が席巻しました。日産のシーマに代表される、いわゆる大企業の社長さんが乗るような大きな車(皆ハイソサイエティ・カー、、、略してハイソカーと呼んでいました) なぜか若者もそんなでラグジュアリーセダンを好んで乗っていたのです。

そして、2000年台に入ると、今度はガラッと変わってホンダのステップワゴンが一番人気に躍り出ます。これは家族みんなで、または友人大勢でレジャーに出かけるのがトレンドになったからです。「子供と一緒にどこいこう?」というCMが思い起こされます。さらに2010年に入って支持されたのがトヨタのハイブリッドカー、プリウスです。つまり、人々は車にラグジュアリーさや利便性ではなく、エコを求めるようになったのです。そして、記事はこういった時代ごとに変わる人々の生活の価値観、ライフスタイルの変化を観測することによって、次の10年は何が支持されるかを想像できるという締めくくりでした。



照明の年代史

特注シャンデリア 『WAVY』 vol1(ヤマギワ)より

そうかなるほど!と頷ける記事だったので、早速照明を1980年台から振り返ってみました。ちょうど私が照明デザイナーとしての仕事を始めた時期で、この頃は毎年新しい光源が開発されるような活気のある時代でした。その当時流行っていたのが、カスタムシャンデリアでした。ちょうどバブル経済に向かって、お金をどんどんつぎ込む時代の雰囲気だったのでしょう!お金をかけた特注のシャンデリアなどを照明メーカーは競って提案していました。

1990年台になると、ようやく光の時代がやってきました。特注シャンデリアも一通り出きってお腹一杯感もあり、新しく出てきたのがハイパワースポットでした。これは反射鏡の直径が30センチ以上あるような大型のスポットライトで、集光した強い光によりバァーン!とかなり明るく照らす機能を持つ物でした。光のチカラで時代を変えよう!そんな雰囲気のするものでした。

それが2000年に入ると、RGBカラーライティングがトレンドになります。ちょうど1995年に中村修二さんによってブルーのLED光源が開発され、色もコンピューターで制御できるようになりました。この禁断の壁を破ったカラーライティングは瞬く間に世の中に広まっていったのです。そしてリーマンショック、東日本大震災を経験した2010年代はというと従来光源から全面的にLED照明へのパラダイムシフトが起こります。エコや省エネというのもありますが、長寿命でメンテナンスがいらない?ということも支持された理由だと思います。



2020年に支持されるものは?

さて、今年は2018年ですから、もう2020年代うっすらと見えてきています。車のトレンドで考えると、やはりテスラのような自動運転カーやEVカーが主流となるのでしょう。システムのIT化、そして内燃機関が電気へ・・・、これは照明も似たようなことが想像できます。照明器具もフィリップスのHueのようなスマート照明の完成度がすでに高くなっていますし、また電源もUSBからとったり、充電式バッテリーが多くなり、電源そのものも交流から直流が主流になりました。

しかし、これは今すでに起こっていることなのでしょう・・・なので、もう少し先読みしてみたいと思います。すると、車も照明もエネルギーや環境ではなく、私たち人間のために・・・といういわばルネサンス的な考え方が生まれてくるように思えます。技術は、経済や生活の利便性を高めてきましたが、一方で経済性第一主義は、技術が私たち人間を幸せにするものであるという理念を忘れてしまったかのようです。

そこで、“人のための”といった、心地よさに人々がより意識を高める時代がやってきています。そういえば年末、10年前に執筆した『デリシャスライティング』が雑誌でとある方のお薦め本として紹介されていました。

雑誌の記事によれば、今欧米で注目されているヒュッゲという言葉があるそうです。これは、デンマーク語で心地よさとか、人といるときに感じるぬくもりとか、不安の無い状態を指すそうです。このヒュッゲの時間は、人によって違いますが、それは温かい部屋でココアを飲んでいるときとか、お気に入りのソファーで読書しているときなど・・・それぞれの自分のヒュッゲな時を知ってるのでデンマークの人は幸福度が高い!というのです。

そして、“ヒュッゲを作るには照明も大切ですよ!”とその選者は『デリシャスライティング』を紹介してくれていました。80年台は華やかさ、90年台は新しさ、2000年台に楽しさ、2010年台に慎ましさが求めらて来たわけですが、続く2020年台は、人にとっての心地よさの感覚が支持されるのではないかと思います。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




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