vol.1 しゃ【紗】

広辞苑第六版1292頁
生糸を絡織[からみおり]にした織物で、透き目があらく、軽くて薄いもの。
さ。うすぎぬ。うすもの。〈和名抄三〉→羅[ら]−・紗[さ]


photo by Takashi Tomooka
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今回のお題は「しゃ【紗】」、写真は簾ごしの風景です。
薄く軽いこの繊細な織物から始まるサーフィンは、一体どんな言葉へと私を運んでいってくれるのでしょう。

 

■ワードサーフィンマップ


解説

■壱ノ波 透けの波

紗が運んできた第壱の波は、この織物の抜けるような質感から始まる「透け」の波でございます。紗や絽という透き通るような織物は、見えそうで見えぬ、ミステリアスで奥ゆかしい「透け」に私を導きます。この言葉を基点に次の行き先を探してみますと、やはり私と同じように幾多もの人が魅せられたのか、「透け」にまつわる沢山の言葉にたどり着くではありませんか。「雲透き」や「透色」、「透影」のような初めて見る言葉との出会いがここにございました。

■弐ノ波 織物の波

第弐の波は「織物の波」。「紗」や「羅」、「綺」と続いた織物のサーフィンの先に、これらの織物が美しさの代名詞として使われているという事実が浮かび上がってまいります。綺と羅をたして美しさを表す「綺羅」、綺のように麗しいことを「綺麗」、キラキラと輝く星までもが「綺羅星」と名づけられております。輝きを放つ星の美しさを現す言葉が、まさか織物から繋がってくるとは!思いも寄らぬ発見でございます。

■参ノ波 照明ツールの波

第参の波は「照明ツールの波」。「紗幕」や「幕」、「とばり」という光を透過したり遮ったり、操作するツールが連なります。この波に乗り思うことは「夜のとばりが下りる」という言葉があるように、幕やとばりは単なる布地ではなく、闇や光を象徴するものとして考えられているのだわ、ということ。「夜のとばりが下りる」という言葉は、夜が普段と少し違う、演劇的で美しい、感慨深く感じられる時に思い浮かぶような気もいたします。

 

■デザインコンセプト抽出のポイント

今回のワードサーフィンで出会った言葉の中で、私は最も「透影」という言葉に注目いたしました。なんと耳にもここちよい、美しい響きに惹かれます。すだれの隙間から透けるように覗く外界の景色や、そこから差し込む光、木の葉の隙間から漏れこむ光と影が混ざり合うような情景。多くの方々に安らぎや心地のよさを思い起こさせる、このような光の表情を、デザインのキーイメージとしてお伝え致したい。けれどこの情景を作っている要素はとても多く、陰影や時間の移り変わり、差し込んでまいります光のすじなど、その一つ一つを事細かに説明しておりましたら、聞いている各々方も長い話に飽きてしまいましょう。さようなとき、「透影」という言葉は断片的なイメージだった素敵な光の現象たちをまとめあげ、心強いコンパスとして、デザインの進むべき方向を示してくれるのではないでしょうか。こんな言葉をさらりと使えたなら…とっても艶やかなお人に見えると思ひませんか。

 

 













:生糸を絡織にした織物で、透き目があらく、軽くて薄いもの。さ。うすぎぬ。→羅
うすぎぬ:地の薄い絹織物。紗や絽など
:からみ織物の一種。紗と平織とを組み合せた組織の織物。緯(よこ)3越・5越おきに透目(すきめ)を作った絹織物。
透き目:物の間のすいているところ。すきま。
雲透き:薄雲をすかしみるように、暗い所ですかしてみること。
透徹:すきとおること。澄んでにごりのないこと。
透色:物を透かして見えた時に現れる色合い。
透影:物の間を洩れて来る光。また、物の間から、あるいは薄いものをすかして見える姿・形。
:薄く織った絹の布。うすぎぬ。うすもの。
羅綾:うすぎぬとあやおり。高級な衣服。
:物の面に表れたさまざまの線や形の模様。入り組んだ仕組み。
綺羅:あやぎぬとうすぎぬ。美しい衣服。外見の美しさ
:あやぎぬ。かんはた。
綺麗:綺のように麗しいこと。
綺羅衣:美しい着物。
綺羅星:(もと「綺羅、星の如く」からか)暗夜にきらきらと光る無数の星。
きらきら:小刻みに連続して光るさま。
紗幕:演劇の舞台などで用いる、薄い生地の幕。寒冷紗などを用いる。照明により、幕の内側の人物などが見えたり消えたりする。
寒冷紗:目の粗い極めて薄い綿布、または麻布。
とばり:室内に垂さげて、室内を隔てるのに用いる布帛。
羅ご:インドの天文学で、白道と黄道の降交点に当たる架空の星の称。日・月に出会って食(しょく)を起こすという。
:ある天体が背後にある他の天体を隠す現象。
(広辞苑第六版より抜粋)


編集後記

このたびのサーフィンを始めるにあたり、my広辞苑を書店にて手に入れました。分厚い紙の辞書と触れ合うのは本当に久々。手馴れた電子辞書とは違い、頁をめくって、いったりきたりしながら字を追いかけ、初めてお目当ての言葉に追いつくという動作も何年かぶりで、なかなか時間がかかります。24万もの言葉が収められている広辞苑の奥深さは本当に海のよう。しかしまだ始まったばかり、字引を引く技術も回を重ねるごとに馴染んでくるはず。次回の波乗りに期待です。


 

 

 






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