vol.3 けはい【気配】

広辞苑第六版 887頁、892頁から抜粋
(本来の表記は「けはひ」。「気配」は当て字。→けわい)
けわい
主に聴覚や直感により、それと感ぜられる様子。雰囲気。そぶり。きざし。品格。


photo by:Shinichi Morita
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今回のお題は「気配」。誰かの気配、秋の気配、雨降りの気配。それが形あるものであれ、姿のつかめぬものであれ、この言葉はわたくしたちに何者かの訪れを感じさせるものでございます。
 かくのごとき底知れぬ言葉の導く先に、何が見えてまいりますのでしょう。入り組んだ波の気配を感じつつ、それではけふもまたワードサーフィンを始めてまいりませう。

 

■ワードサーフィンマップ


解説

■壱ノ波 
姿をつかませぬ「空気」のような波

「気配」は「きざし」や「雰囲気」のような、何かの起こる予感をはらんだ、芽生えや、その場を満たす空気のための言葉へとわたくしを運びます。
波乗りを始めてまだ幾ばくも経たぬといいますのに、波は「空気」のようにはっきりとは姿をみせず、「そこはかとなく」混沌を広げていくのでございます。その流れを見失いませぬよう、ここは身を任せてなされるがまま、波に乗ってみることに致しましょう。

■弐ノ波
重なり合う五感の波

波は時に「匂い」を届け、趣深い「しらべ」を奏で、また視界を「ぼんやり」とさせるのです。感覚をめぐってころころとかわる表情に、次第と翻弄されてまいりました。 
この波の中では、五感で受け取る感覚が彼方此方にあふれ、幾多の感覚でもって、「気配」がそっと近付く足音を感じとれるのだ、と察せられるのでございます。
「気配」として感じられる、「ほのかな」趣や感覚は、奥深さを合わせ持ち、「幽艶」や「幽雅」によってその美しさが表されておりました。

■参ノ波
感覚の波を包む「気配」

この混沌として見えた波に乗り続けておりますと、「匂い」を追っているようで、ぼんやりと遠方が見えぬ「霞」に行き着き、味覚をもとにした言葉の先に、物事の深い理解を表す「味得」がある、そんな感覚の行き来が繰り返されます。
五感は互いにオーバーラップしながら、或るひとりの人間が感じる世界を織り上げているようではございませぬか。その世界を包む「空気」を掴むきっかけが「気配」。人は五感の全てを働かせ、その場の「空気」を自分の内に取り込もうとするのでございましょう。

 

■デザインコンセプト抽出のポイント

五感の波に包まれた後、わたくしにはどうにも放ってはおけぬ表現がございました。
「匂いやか」。美しくつやつやとした物にふさわしいこの言葉。
「匂い」というものは、控えめなときもあれば刺激的にもなれる物でございます。
伴侶を選ぼうというような、人としての根源的な欲求にまつわる場面にも、「匂い」はその力を存分に発揮いたします。主の立去りし後にも其処にとどまり、残り香を嗅いだものの心を捉えて離さぬのです。姿かたちを見せぬまでも、その想像と心をもてあそぶことができてしまうなどとは、「匂い」はまさに五感を働かせるための鍵といえましょう。

そのものが持つ雰囲気としてあたりにたちこめ、人々を魅了する「匂い」。それは同じく空間を満たしている光にも似た様相をもっていると貴方は思いませぬでしょうか?
「匂いたつような光」、視覚だけでは丸ごと感じることのかなわないような、幾重にも張り巡らされた五感による刺激が織り成す光の空間でございます。
そんな光に満たされますれば、これ以上に感覚を満足させられることはありませぬ。ああいとおかし…。

 

 













けはい【気配】:(本来の表記は「けはひ」。「気配」は当て字。→けわい)
@何となく感じられる様子。そぶり。「隣室に人の−がする」「秋の−」「−をうかがう」
けわい:(気配と当て字)主に聴覚や直感により、それと感ぜられる様子。雰囲気。そぶり。きざし。品格。
きざし【兆し・萌し】:@草木が芽を出すこと。芽生え。
A物事の起ころうとする前ぶれ。兆候。
ほう【萌】:芽が出る。きざす。芽ぐむ。
もえぎ【萌黄・萌葱】:@葱の萌え出る色を連想させる、青と黄との間の色。もよぎ。
A襲かさねの色目。表裏共に萌葱。また表は薄青、裏は縹はなだ。
−・におい【萌葱匂】@鎧の縅の一種。萌葱色の匂縅。
におい【匂】:@赤などのあざやかな色が美しく映えること。Aはなやかなこと。つやつやしいこと。Bかおり。香気。C(「臭」)と書く。くさいかおり。臭気。「すえた−」Dひかり。威光。E人柄などの、おもむき。気品。F(「臭」とも書く)そのものが持つ雰囲気。それらしい感じ。G同色の濃淡によるぼかし。
ア:染色法また襲の色目などで、上が濃く、下がうすい配色。上を濃くするのを普通とし、下を濃くするのを裾濃という。イ:匂縅の略ウ:女の書き眉の下の方の薄くぼかしたところ。エ:日本刀の刃の、地肌との境目の部分に霧のようにほんのりと見える文様。
H芸能や和歌、俳諧などで、そのものに漂う気分・情緒・余情など。
においやか【匂いやか】:美しくつやつやしたさま。におやか。
ほんのり:色・香り・味などがほどよく薄くてわずかに感じられるさま。「ーと赤みがさす」「ー甘い」
はかない【果無い・果敢ない・儚い】:(ハカは、仕上げようと予定した作業の目標量。それが手に入らない、所期の結実のない意)
物事の度合いがわずかである。かりそめである。
ぼんやり:色・輪郭・意識・記憶などが明瞭でなく薄くかすんでいるさま。「遠景がーかすむ」「ーと思い出す」「ーして衝突する」
ふんいき【雰囲気】:その場面またはそこにいる人たちの間にある一般的な気分・空気。周囲にある、或る感じ。ムード。アトモスフェア。
かんじ【感じ】:物事や、人に触れて起こる思い。感想。印象。雰囲気。「わびしいー」「ーのいい人」
いんしょう【印象】:@強く感じて心に残ったもの。感銘。「ーが強い」「よいーを与える」A〔美〕対象が人間の精神に与える全ての効果。
ー・づける〔印象付ける〕 強い印象を与える。鮮烈なイメージを与える。
イメージ〔image〕:心の中に思い浮かべる像。全体的な印象。心象。
しんしょう【心象】:〔心〕意識に浮かんだ姿や像。心像。「ー風景」
しんしょ【心緒】:(シンチョとも)こころの動くいとぐち。思いのはし。
きぶん【気分】:@きもち。心もち。恒常的ではないが比較的弱くある期間持続する感情の状態。爽快・憂鬱など。A当たり全体から醸しだされる感じ。雰囲気。
かもす【醸す】:ある状態や雰囲気を作り出す。次第に作り出す。「物議をー・す」
じょうせい【醸成】:機運・雰囲気などを次第に作り出すこと。かもし出すこと。「社会不安をー・する」
ムード【mood】:気分。情調。雰囲気。「ーが高まる」「あきらめー」
じょうちょう【情調】:@おもむき。気分。「異国ー」A喜怒哀楽などの感情
ちょう【調】:音声や文章のしらべ。おもむき。
しらべ【調べ】 :@音楽を奏すること。詩歌をうたうこと。音律の調子。また、楽曲。
源明石「琴の御琴取りに遣はして、心殊なるーをほのかにかき鳴らし給へる」。
おもむき【趣】:@心の動く方向。心の動き。心のあり方。Cしみじみとしたあじわい。おもしろみ。「ーのある庭」
しみじみ【染み染み・沁み沁み】:@深く心にしみるさま。よくよく。つくづく。A静かに落ちついているさま。しんみり。
ふぜい【風情】@おもむき。味わい。情趣。
あじわい【味わい】:@食物のあじ。うまみ。A物事のおもむき。おもしろみ。「ーのある文章」
みとく【味得】:物事内容をよく味わって自分の物にすること。味到。
みかい【味解】:よく味わい、理解すること。
ほのか【仄か・側か】:@はっきりと見分けたり、聞き分けたり出来ないさま。かすか。A光・色・香りなどがわずかに感じられるさま。ほんのり。うっすら。Bぼんやりと認識するさま。かすか。「ーな愛情を感じる」「ーに記憶している」
かすか【幽か・微か】:物の形・色・音・匂いなどがわずかに認められる様。しかと認めにくいさま。
ゆうえん【幽艶】:奥ゆかしく美しいこと。「ーな姿」
ゆうが【幽雅】:おくゆかしく上品なこと


編集後記

ワードサーフィンを終えて、わたくし自身もいかばかり、艶を帯びたように感ぜられます。感覚を研ぎ澄まし味わうべきような、色気のある言葉を意識しておりましたからでしょう、その心持に合わせて佇まいも変わってまいります…。
やはり言葉の力は大きなもの。物を指し示すだけにとどまらぬ、心の内や感覚にも迫ってゆく、さらに深い言葉の世界にひきつけられる回でございました。


 

 

 






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