vol.4 かげ【影・陰・蔭・翳】
505頁 506頁から抜粋
日・月・灯火などの光。光によってその物のほかにできる、その物の姿。
あるものに離れずつきまとうもの。おもかげ。
物にさえぎられ、またはおおわれた、背面・後方の場所。
今回は光が存在するためにはかかせない「かげ」がお題でございます。波乗りの先にどんな「かげ」の姿がみえてまいりますのでしょうか。
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解説
■壱ノ波 あかりを意味する“かげ”
暗がりを意味すると思っておりました「かげ」でしたが、その意味を調べますと一番に語られるのは「日・月・灯火などの光」という側面でございました。
「月影」などはつきの光を表すものでございます。また「かげ」という響きを持ちながら「陽炎」もまた光の情景を伝えます。陽炎には別名があり、それを「いとゆう・ゆうし・あそぶいと」などとも。蜘蛛の吐き出す微細な糸が宙を舞い、キラキラ光を返す様子を陽炎に見立てたと言われております。そんな一瞬の輝きまで「かげ」からつながるのは意外にして、必然におもえるのでございました…
■弐ノ波 日本の“暮らし”にまつわること
なにやら「かげ」にまつわる文化の香りが強く漂ってまいりました。淑女のたしなみといたしまして、見物に参ろうではありませんか。
歌舞伎で使われる「面明り」は燭台を用いて役者の顔を照らし、舞台上に「あかり」と「かげ」を作り出すスポットライトの役目を担います。また「影見」は岩手県地方で行われる年中行事で、月光に照らされ、映し出された影の出方でその人の命運を占うものでございます。人々は暮らしの中で、光によって主役を照らし出すように、「かげ」の存在も同じように求め、舞台上に作り上げていたのでございますね。
■参ノ波 “闇に隠す”こと
従者が貴人に扇を「翳し」てかげをさしかける様子は、大事な物をかげに隠し、守ってきた日本人の「かげ」や「隠す」ことへの美意識をうかがわせます。「陰影」ということばが、平板でない、深みのあることを表すように、人々は「かげ差すこと・隠すこと」の美しさを大事にしてまいりましたのでしょう。
日常交わされる会話にも「翳詞」や「夜言葉」のような言葉が使われます。
昔、人々は夜を恐れ、それゆえ夜には似つかわしくない「ことば」があると考えました。そんな時の為に、言い換える語句を用意しておりましたのです。
「隠す」ことで深みを増す、そんな意識が隅々まで流れ込んでいることを悟らせます。
■デザインコンセプト抽出のポイント 『面明り』
先に紹介しました「面明り」は、柄の長い燭台を役者の前に差出し、顔を照らす照明道具でございます。これは役者を照らしだすのと同時に、ゆらめく影を作り出し、妖しさをも演出致します。様々な照明技術が発達した今なお使われ続けるこの技術、時には意図的に足を闇に隠し、妖怪変化の姿に見せることも。影を一つの衣装として人に纏わせ、演出効果を高める、古風で魅惑的なすべでございます。
闇の中で小さな炎に照らし出されると、うつろう光の中でその姿を捉えようとより一層観客の目は、役者へと釘付けになります。普段私たちの生活はまんべんなく照らされ、そこに光があることを意識する機会の少いものです。一方で「面明り」を捉えようとする瞬間は、確かに「あかり」と「かげ」を意識し、そこに明るさ以上の物を感じ取っています。「あかり」を感じるということが、感情や空気を捉えることと通じていると、強く感じさせるものでございました。 |
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