vol.4 かげ【影・陰・蔭・翳】

505頁 506頁から抜粋
日・月・灯火などの光。光によってその物のほかにできる、その物の姿。
あるものに離れずつきまとうもの。おもかげ。
物にさえぎられ、またはおおわれた、背面・後方の場所。


photo : shadow dancer by Magdalena Roeseler
URL https://www.flickr.com/photos/magdalenaroeseler/11911419676/


今回は光が存在するためにはかかせない「かげ」がお題でございます。波乗りの先にどんな「かげ」の姿がみえてまいりますのでしょうか。

 

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解説

■壱ノ波 あかりを意味する“かげ”

暗がりを意味すると思っておりました「かげ」でしたが、その意味を調べますと一番に語られるのは「日・月・灯火などの光」という側面でございました。
「月影」などはつきの光を表すものでございます。また「かげ」という響きを持ちながら「陽炎」もまた光の情景を伝えます。陽炎には別名があり、それを「いとゆう・ゆうし・あそぶいと」などとも。蜘蛛の吐き出す微細な糸が宙を舞い、キラキラ光を返す様子を陽炎に見立てたと言われております。そんな一瞬の輝きまで「かげ」からつながるのは意外にして、必然におもえるのでございました…

■弐ノ波 日本の“暮らし”にまつわること

なにやら「かげ」にまつわる文化の香りが強く漂ってまいりました。淑女のたしなみといたしまして、見物に参ろうではありませんか。
歌舞伎で使われる「面明り」は燭台を用いて役者の顔を照らし、舞台上に「あかり」と「かげ」を作り出すスポットライトの役目を担います。また「影見」は岩手県地方で行われる年中行事で、月光に照らされ、映し出された影の出方でその人の命運を占うものでございます。人々は暮らしの中で、光によって主役を照らし出すように、「かげ」の存在も同じように求め、舞台上に作り上げていたのでございますね。

■参ノ波 “闇に隠す”こと

従者が貴人に扇を「翳し」てかげをさしかける様子は、大事な物をかげに隠し、守ってきた日本人の「かげ」や「隠す」ことへの美意識をうかがわせます。「陰影」ということばが、平板でない、深みのあることを表すように、人々は「かげ差すこと・隠すこと」の美しさを大事にしてまいりましたのでしょう。
 日常交わされる会話にも「翳詞」や「夜言葉」のような言葉が使われます。
昔、人々は夜を恐れ、それゆえ夜には似つかわしくない「ことば」があると考えました。そんな時の為に、言い換える語句を用意しておりましたのです。
「隠す」ことで深みを増す、そんな意識が隅々まで流れ込んでいることを悟らせます。

 

■デザインコンセプト抽出のポイント 『面明り』

先に紹介しました「面明り」は、柄の長い燭台を役者の前に差出し、顔を照らす照明道具でございます。これは役者を照らしだすのと同時に、ゆらめく影を作り出し、妖しさをも演出致します。様々な照明技術が発達した今なお使われ続けるこの技術、時には意図的に足を闇に隠し、妖怪変化の姿に見せることも。影を一つの衣装として人に纏わせ、演出効果を高める、古風で魅惑的なすべでございます。

 闇の中で小さな炎に照らし出されると、うつろう光の中でその姿を捉えようとより一層観客の目は、役者へと釘付けになります。普段私たちの生活はまんべんなく照らされ、そこに光があることを意識する機会の少いものです。一方で「面明り」を捉えようとする瞬間は、確かに「あかり」と「かげ」を意識し、そこに明るさ以上の物を感じ取っています。「あかり」を感じるということが、感情や空気を捉えることと通じていると、強く感じさせるものでございました。













影・陰・蔭・翳:日・月・灯火などの光。光によってその物のほかにできる、その物の姿。水や鏡の面などにうつる物の形や色。物体が光をさえぎったため、光源と反対側に出来る暗い部分。
(比喩的な用法)
あるものに離れずつきまとうもの。薄くぼんやり見えるもの。
(物の姿)
おもかげ。万二「たまかずら−に見えつつ」。
(物の後ろの、暗いまたは隠れた所。)
物にさえぎられ、またはおおわれた、背面・後方の場所。
闇夜の灯火:困っているときに、いちばん役に立つものにめぐりあうこと。また、切望している物にめぐりあうこと。
月影:@月のひかり。A月の形 B月の光に映し出された物の姿。
玉響:ほんのしばらくの間。一瞬。草などに露の置くさま。
美称:物や人を飾ったりほめたりする呼び方。美名。「酒」を「百薬の長」という類。
影待:前夜から清斎して寝ずに日の出を待って拝むこと。一般に正・五・九月の吉日を選んで行い、終夜酒宴を催す。
影見:岩手県地方で、満月の光による自分の影を見て、その年の吉凶を占う小正月の風習。
陽炎:春のうららかな日に、野原などにちらちらと立ち上る気。いとゆう。
はかないもの、ほのかなもの、あるかなきかに見えるものを意味することもある。
陽炎稲妻水の月:捕らえることのできないもの、身軽で素晴らしいもののたとえ。
面影:目先に無い物が、いかにもあるように見える、そういう顔や姿やもののありさま。
面明り:歌舞伎で、電灯照明のない時代に、役者の顔を観衆に良く見せるために、後見が長い柄の燭台を差し出して、その面を照らした物。面火、差出。
火影姿:灯火の光で見える姿。
糸遊/遊糸/遊糸:かげろう。
薄暮:薄明かりの残る夕暮れ。くれがた。たそがれ。ひぐれ。
薄彩み:薄くいろどること。
翳し:手または手に持ったものを上げて、あるものにさしかける。頭上に掲げる。おおうようにする。また、目をおおって光をさえぎる。
翳詞:俳諧などで忌むべきことを呼び変えていう語。正月三が日は「雨」を「おさがり」、「ねずみ」を「よめが君」という類。
翳の羽:外出する貴人に従者がさしかけて顔をおおうもの。
陰翳・陰影:うすぐらいかげ。くもり。転じて平板でなく深みのあること。ニュアンス。
夜言葉:忌詞(イミコトバ)の1つ。夜間に使用を避けた語、また、その言い替え語。


編集後記

「かげ」の世界はすそ野も広く、歌舞伎や江戸の生活にも思いをはせる物となりました。
「かげ」はやはり日本人の感性をとらえ、様々な文化、行事や風習へと私を運ぶものでございました。今年の月見の折にはわたくしも、自分の「かげ」をかえりみて、この一年を占ってみようと存じます。


 

 

 






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