Vol.10│魅せられたルミナーレの光

照明をワイン文化に習う

投稿日:2012.08.20

夜空を彩る灯り

皆様、お盆はいかがお過ごしでしたか? 先週、京都では五山送り火、長崎では精霊流しなど、日本の夏の風物詩ともいえる光の行事が各地で行われました。地域によっては花火大会をはじめ、提灯や灯篭をはじめとしたライトアップやサマーイルミネーションなど、街を光で彩る様々なイベントが行われたようです。光のイベントと言えば、三原色のLEDが登場したことで、気軽にきれいな光の色を演出することができるようになりました。
 
しかし、光というものは不思議なもので、色を使った演出を派手にやればやるほど、その演出はなぜか薄っぺらなものに見えてくるから不思議です。何だか光の神様がいらっしゃって、「もう少し光の本質に迫るような仕事をしなさいね!」といわれているようにも感じます。たしかに派手な仕掛けを使わない自然な光の現象のほうが、はるかに人の心を捉えたりするものなのです。



フランクフルトを代表する光の祭典

さて、照明のインスタレーションの話をするときに引き合いに出したいのは、国際照明見本市「Light+Building(ライトアンドビルディング) 2012」と同時に開催される「ルミナーレ」という光のお祭りです。

これは2年に一度ドイツ・フランクフルト市を挙げて行う巨大なイベントで、開催期間中は街全体が照明一色という感じになっています。たとえば、普段何気ないオフィスビルがライトアップしていたり、デパートもカラフルな光のデコレーションが施されています。これらの光のインスタレーションは、街の中に100か所以上も点在していて、夜になるとそれらの場所を見るために無料のバスが巡回しているほど力を入れているのです。そして、これはこの期間にフランクフルトを訪れる人々の愉しみの一つとなっています。
 
私も 今年の4月には、この光のインスタレーションを見るためにカメラを抱えて様々な場所を訪ねてみました。たとえば、街の中心を流れるマイン川にかかる幾つもの橋や、広場、教会など・・・光はそれぞれに工夫が凝らされていて、それらを巡る夜の散歩は昼間の疲れを癒すほどに楽しい時間でした。



光源はどこぞ?シンプルなからくりに感動

ガイドブックを手に「えーと、この辺に学校があるはずなんだけど・・・」などと言いながら地図に記載されている「光のサイト」を探し、街を歩いていったのですが、やはり最近の傾向としてはLEDによるカラーライティング手法がたくさんありました。そんな中で、LEDを全く使っていない、とても感動的な心にしみるほど美しい光のインスタレーションに出会うことができました。それは、ある教会内で行われた光のインスタレーションだったのです。
 
教会の内部を全面的に使ったそのインスタレーションとは、次のようなものでした。まず、教会に入ると、祭壇の真上に細い糸とフレームで作られた(一辺が4メートル位の)大きな三角すいが釣り下がっていて、ゆっくりと回転しています。近づいてみるとそれはどこからか少しオレンジ色の光で照らされていて、オブジェ自体がゆっくりと回転しているせいで、糸が時折光を捉えてキラン・・・キラン・・・ときらめくのです。

さらに眺めていると、横からもう一つ別の光が投げかけられます。それは細い棒のような光(まるでコピー機がスキャンするかのよう)がオブジェ自体を下から上へと移動するのです。この光によってまたさらなる不思議な現象・・・それは空間がゆがんで見えるような4次元の美が生まれる作品なのですが、見とれるほどに美しく、私の心をひきつけて離さない演出でした。もう、たぶん何時間見ていても飽きないと思える光に出会ってしまったのでした。
 
暫くは、この美しくしかも神秘的な光の演出に見とれていたのですが、ふと我に返って、この光の現象をスケッチしてみることにしました。「これは一体どんな仕掛けになっているのだろう?」と光源を探してみると、三角すいを浮かびあげていた照明は祭壇の後ろから正面にあるパイプオルガンを狙うように照らしており、祭壇上の十字架をギリギリかすめるくらいの向きなので、作品を見ている人からは光源は見えずに、三角すいだけが光を捉えていたのです。これがとても上手な配置なのですが、ただ「光源の居場所を工夫した」などと解説するには、あまりにも絶妙な設計でした。
 
そして、もう一つのスキャンするような光はじっくり光の動きを観察して探ったところ、2階から発せられていることが分かったのですが、これにはさらに驚かされました。そこにはゆっくりと回転する三角柱のプリズムがあり、光の屈折によってプリズムから細長い光が発せられるという、思いのほかシンプルな仕組みがありました。

インスタレーションを2階から見た様子。こちらに細長い光が発せられるプリズムが設置されていました。

コンピュータから送られるデジタル信号によって動くLEDカラー照明よりも、光の仕込み方に工夫を凝らして、絶妙な空間の光を思慮深く演出するインスタレーションのほうがはるかに感動的だったのです。
 
LEDをはじめとする照明技術の進化により今ではカラフルな演出が可能となったものの、それらの多くは、ただこれ見よがしに七色の光を見せているだけかもしれません。光による感動は、私たち人間が遠い原始の時代から培われてきた光の記憶を呼び起こすことができなければ得られないだろうと思います。なぜなら、私たち人類が地球という星に暮らし始めてから、今日に至るまでの光の体験は相当量の積み重ねがあり、それらはすでに私たちの遺伝子的な記憶として刻みつけられているのです。

フランクフルトのお祭りの夜、たまたま出会った光のインスタレーションは、これらのことを一瞬にして総括し、照明デザイナーとして生きる私に、更なる想像力を働かせよ!と示唆してくれたのかもしれません。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。






vol.01 光の質にこだわっていますか?


vol.02 近未来の照明生活


vol.03 電球シルエットは不滅?


vol.04 ブラックアウト・停電


vol.05 照明国際見本市での小さな楽しみ


vol.06 「Light+Building 2012」レポート


vol.07 デイライト・ミュージアム


vol.08 ファッションデザイナーが作ったホテル


Vol.09 光をテイスティングする!


Vol.10 魅せられたルミナーレの光


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