ダウンライト進化論

オリエンタルな共通認識

illustration by Hiroyasu Shoji
投稿日:2013,2,21

 

照明といえば天井?

今回は皆さんへの質問から入ってみましょう!
「あなたの身の回りにある照明器具は、部屋のどこに付けられていますか?」
ご自宅、勤め先、買い物をするお店など・・・の空間を思い出してみましょう。

恐らく、かなりの照明器具は天井に付けられているでしょう。そう、現代の生活では、照明は天井についているのが一般的となっています。

いったい、いつ頃から照明器具が天井に付けられてきたのか?
調べてみたことがありますが、実はその歴史を紐解いてみると、始まりはそう遠い昔のことではないようです。

天井に照明器具がつけられ始めたのは、せいぜい150年くらい前からのことのようです。それまではキャンドルやオイルランプの時代、当時はテーブルや棚、壁などに“置くスタイル”が照明でしたから。それがガスや電気をエネルギー源として照明をとるという、時代を経て天井へと移動していったようです。

さらに天井照明のトレンドは、エジソンが電球の実用化に成功した19世紀後半から20世紀に入り急速にその傾向が強まりました。特に、天井に照明器具を埋め込む「ダウンライト」が発明された20世紀前半からは、照明器具は天井につけるもの!とさえ言えるような時代になったのです。

今日は、そんなダウンライトにまつわるお話を書いてまいりましょう。




ダウンライトの成り立ち

前述のとおり、そもそも照明は、天井に取り付けるものではありませんでした。オイルを取り換えたり、キャンドルを差し替えたりして灯りをともしていましたので、テーブルや棚の上に置かれているのが一般的でした。

唯一例外があったとするのなら、中世以降の教会や劇場などの大空間においては、昇降式のシャンデリアが登場していることです。これはもちろんたくさんの人が集まる空間での安全で機能的な照明方式として工夫されたものだったのでしょう。すべてのシャンデリアは、ロープを使って吊り下げられていて、そのロープを下げてキャンドルの取り換えをしておりました。

その後、ガス灯から電気の時代に突入し、インフラとしてのガス管や電気の配線を建物内に引き込むときに、天井を使って設置したほうが容易であったために、照明器具が天井に付けられ始めた・・・というようなことを何かの本で読んだことがあります。

日本でも大正時代の終わり頃から始まる、日本全国への電灯線の普及する時代には、木造家屋に引き込まれる電線は、備え付ける便宜上、天井に配置されることとなりました。これが洋の東西を問わない「照明器具の(天井への)大移動」であったようです。(←大げさですが、面白いですね!)

さらに時は進み、20世紀の前半から半ばにかけて、建築の世界には大きな変化が始まります。それは、機能主義、という新しいデザインの考え方の登場でした。モノや建築、空間は、人間が必要とするその“機能”に従って形作られなければならない!という考え方です。それまでの建築やデザイン全般は、やたら装飾がたくさんついていて、その装飾のスタイルや趣向がその時代を象徴していましたが、機能主義によりデザインの本質は、飾ることではなく、できるだけシンプルで要求される機能に従ってのみ形態を考えるべきだと考えられるようになったのです。

そして、照明もこのムーブメントによって大きく変わることとなります。たとえば、20世紀を代表する建築家、フランク・ロイド・ライトの作品を見てみると、20世紀初期での建築では照明は建築デザインに合わせたモチーフで作られたスタンドが家具的に配されており、まだ天井には照明がありませんでした。それが1950年頃になると、間接照明や天井照明が登場するようになってきます。

機能主義建築の登場によって、照明だけでなく、空調などを含めた「設備機器」はすべて天井に取り付けられてまいります。そして床や壁面は自由に使えるようになっていったのです。




天井には無数の穴ボコ、それってお洒落?

ところで、今日照明の主流となっているダウンライトですが、これには実に様々な種類があります。円いもの、四角いもの、小さいもの、大きなもの、存在が目立たないもの、光が広がるもの、スポットライトのように集光した光を発するもの・・・光源の種類やワット数の違いを加えたら、一つのメーカーでも数百種類にもなってしまいます。

そして、デパートやブティックの天井を見ると、大小さまざまな機能に応じたダウンライトがぎっしりと付けられているのをよく目にすることがあります。照明の必要数に応じてたくさんのダウンライトを設置してゆくと、結果的に天井がダウンライトの穴だらけになってしまうのです。すると、この様子が美しくないという人が登場します。もう少し、エレガントに照明を取り付けられないものか・・・?

そんな風にして考案された、ユニークなダウンライトがあります。それは、穴ではなくスリット状の溝を用いて照明を収納するスタイルなのです。


 
え?こんなの見たことない?
では、いわゆるラグジュアリーブランドと言われる旗艦店を探してみてください。そう、あの有名な日本人が大好きなフランスやイタリアのかばん屋さん、あるいは有名なファッションのブティックなどでは、ここ10年くらいのトレンドとしてスリットダウンライトが好まれています。

これらの高級な物販店では商品群を照らすためにたくさんの照明が必要となるのですが、その数だけの穴ボコダウンライトをつけると、どうしても美しい空間作りを邪魔してしまいます。やはりお洒落にこだわる業界ですから、スッキリとした一本の直線、もしくは曲線から何気なく光が発せられているスタイルが非常に喜ばれたのでしょう。

機能主義の思想が産み落としたダウンライトも、長い年月を重ねて天井の穴から溝へと進化したのかもしれません。さらにこれからも、LEDや次世代の照明と期待されている有機EL照明の登場によって、さらなる進化が進むのではないかと近未来の照明スタイルを頭に描いているところです。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。





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