Vol.32│ニューヨーク、3つの出逢い

絵の具に見たLEDカラーの確立

投稿日:2013,8,22

 

画材屋で気がついたこと

この春のニューヨーク滞在中のお話です。仕事の合間にNOHOエリア(SOHOの北側)を散歩していると、有名な画材屋「Blick Art Materials」をみつけました。それは、間口が30メーターもある大きな店舗で、地階と1階が売り場になっていました。所変われば品変わる・・・とでもいうのでしょうか?ここニューヨークの鉛筆やボールペン、消しゴム、定規の類にもアメリカならではの匂いがあるかもしれない・・・と思い店の中を見て回ることにしたのです。

その楽しい時間はあっという間に2時間も過ぎてしまったのですが、そこで購入した品々の中でも特に私の心が魅かれ、ここでご紹介したいと思っているのが写真にある絵具です。ご覧の通り、全て黄色の絵の具ですが、微妙に色合いが異なっています。そして、色の名称を見ると、全て真ん中に大きく「YELLOW(黄色)」と書いてあります。私がビビッときたのはここなのです。さて、まずはその理由をお話いたしましょう。





色味の概念

Blick Art Materialsという店はアメリカではとても有名な画材専門店で、この絵具はこの店のオリジナルブランド名が冠されています。私は特に油絵を描く趣味があるわけではないのですが、この絵具のチューブを見た瞬間に、「これはいいぞ!買うべきだ!」というメッセージが頭の中を駆け巡ったのです。

これらは同じ「YELLOW」にも微妙な色味の異なるものが5種類用意されているのです。左から「Cadmium Pale Hue」「Lemon」「Cadmium Hue」「Naples」「Cadmium Deep Hue」という名前が付けられております。他のメーカーの絵具もチェックしてみましたが、だいたい同じような名前と種類がそろっておりました。しかし、それらの中からこのシリーズにとりわけ興味を持った理由は、それぞれのチューブに大きく書かれている「YELLOW」という文字があったからです。

この絵具は、とにかく“黄色!”とわざわざ断らなくても分かるのに・・・そこがアメリカなんだなぁ・・・と少し納得したところで、「光の絵具」という日本語が脳裏をよぎりました。光源の色温度やスペクトルの違いがある光にも、絵の具にあるような色味の概念を持ち込むことができるのではないか・・・。

というのも、照明デザイナーは常日頃、光源の微妙な色合いの違いを認識し、それぞれのプロジェクトや空間の違いによってふさわしい光源を選択していますが、初めて説明を受ける方には、ピンと来ないこともあるようなのです。




絵の具のような電球があれば・・・

 

このところ、世の中は白熱電球が次第に影をひそめ、LEDが世の中を席巻しています。これまで電球の色と言えば「白熱電球の温かい色味=2800K(ケルビン)」と決まっていましたが、「電球色」のLED電球を手に取ると2700K、2800K、3000Kがあれば、3500Kも出ています。

大型ホームセンターのLED電球売り場に行くと、色温度の違いを実際に点灯して説明する小さな箱が並んでいたりしますが、それが無いところでは色温度が何種類もあるなんてことはわかりにくいかもしれません。こんな現実の問題を少しだけわかりやすくするには、ランプを絵の具にあるような色味の概念で紹介してみるのが良さそうだと思いませんか?

Blickの絵の具チューブのように、売り場には、「電球色」の中にもグッと暖かい「Deep Warm」から「Warm」そして「Light Warm」、さらに「Warm White」の4種類が用意されていますが、最近お客様のリクエストを受けて「Very Deep Warm」という新色も登場いたしました。何て解説が聞けたりするのです。

なかなかいいじゃないですか!

ところで、そもそもチューブに絵具が入ったのはいつの頃からなのでしょうか?そんな興味が出てきたので調べてみました。すると、現在使われているようなチューブ状の製品ができたのは外に出て絵を描くようになった印象派の頃のようです。印象派を代表する画家と言えば、モネやルノワールやセザンヌですから19世紀半ばくらいの出来事であったのでしょう。それ以前の絵画は、おおむね画家のアトリエで弟子などが顔料と乾性油などを練成して絵の具を作って描いていたのでしょうが、屋外で素早く絵を描くためには、予め調合された絵具があった方が便利・・・そんな要求から開発されたもののようです。

光の絵具という発想は、長寿命のLED電球ですが、もし突然切れてしまった時に何色の光を買えばいいのか?という問題にも効果的に対処できるでしょう。そして、少しマニアックな人にとっては、「同じDeep Warmでもメーカーごとにスペクトル分布に違いがあるんだよ・・・」とか、「いやいや36色の電球の色を知っているよ・・・」なんていう会話が生まれたら、もうこれは照明文化が成熟したといってもいいかもしれません。そんな妄想を描くことができたのが、この絵具であったのです。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。





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