Vol.30│赤ちゃんが快適にすごせる環境とは 

“デザインの価値に誇りをもつ”

投稿日:2013,7,4
photo by Janet Ramsden

 

“クセモノ”と言えば・・・

みなさん、スコットランドには「ハギス」という、かなりクセモノな伝統料理があるのをご存知でしょうか? これは羊の肉や内臓を大麦、カラス麦、ハーブなどと共に羊の胃袋に入れてゆでたものだそうで、香りの強そうな材料から察する通り、独特の味わいが特徴なのだそうです。クセモノだけに敬遠する人もいれば、虜になってしまうほど愛好家も多く、「ハギスは、満月の夜に心の清らかな者だけが目撃できる、くちばしを持ち全身が毛で覆われて丸っこいカモノハシのような動物だ」という架空のストーリーまで作られているらしいのです。

そんな愛すべきクセモノなのですが、照明の世界に置き換えると・・・?
すぐに連想されたのが、トンネルの中でよく見られるオレンジ色の低圧ナトリウムランプです。この光もひとクセある特徴から、活用の場が限られているようでありながら、見方を変えればなかなか面白い存在にもなれる、まさにクセモノ照明だと思うのです。





世にも不思議な光の世界

photo by Highways Agency

 

低圧ナトリウムランプのオレンジ色の光だけの空間に入ると、人間の目にはちょっと変わった光景が広がります。それは物の色が全く判断つかなくなってしまうのです。あなたが自慢するイタリアンレッドのオープンカーもこのクセモノ光に掛かると、ただどす黒い鉄の塊に見えてしまいます。またドライバーの着ているビビッドな青いジャケットもグレーの地味な色にしか見えてこないのです。

これは光源が特定のオレンジ色の波長だけを持つために起こる現象です。この光は排気ガスやちりの影響を受けにくく、光が通りやすいのと、効率が高く24時間点灯させる必要があるトンネルでは電気代が安く済む・・・というのが採用の理由です。トンネル内の安全性を確保するためには、色の再現性を捨ててもしようがない!と考えているのでしょう。

しかし、そんな“色を失ってしまう”ような、クセモノ照明なんて、他に出番がないのでしょうか?





インパクトをデザインに

たとえば、私が時々講師を担当させていただいている「電球ソムリエ講座」では、受講者の方に照明の面白さを伝えるために、光の実験パフォーマンスとして、この低圧ナトリウムランプを使うことがあります。


この写真のように赤・白・緑のイタリア国旗と赤・白・青のフランス国旗も、低圧ナトリウムランプの下ではまるで同じ国旗のように見えてしまい区別がつかなくなってしまうのです。どうです?おもしろいでしょう?!

この面白みはオラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)という、光を活用したインスタレーションを自らのアート表現とするアイスランドの芸術家も作品のひとつで展開しています。また、実は私が照明デザインを担当している北京のホテルの高級レストランバーでも、低圧ナトリウムランプを用いています。

そこはルーフトップテラスに設置されたレストランで、お客様が屋外から店内に入る際のウェルカムゾーンを今まで見たことのないような空間にしようというアイデアから、低圧ナトリウムランプを使うことになったのです。エレベータでルーフトップに到着すると、そこには何やら秘密のスペースの入口が見えてきます。そして、その入り口を入ると、いきなりオレンジ色の光に満たされたエントランス空間に入り込みます。何とも不思議、非日常的な光のお出迎えにワクワクする・・・そんなクセモノなる使い方なのです。

豪華なシャンデリアや素敵なガラスのオブェの類では飽き足らない時代となったのでしょう!モノの価値を超えて、人間を取り巻く光の現象を空間に持ち込むことに着目する時代になったのかもしれません。普段はクセモノと敬遠されがちなオレンジ色短波長の光も、この時ばかりは、訪れた人をアッと驚かす楽しい光となってくれることでしょう。


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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。





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