Vol.131|ポートランド旅行記・後編

ホテルの部屋で“観た”癒しの光とは
投稿日:2017,12,08
Photo by Hiroyasu Shoji

ポートランドという所

今回は前回から引き続き、この秋に行ったアメリカのポートランドへの旅での出来事をお届けします。前回の冒頭でポートランド旅行を決めた理由をいくつかお話しましたが、それ以外にもかねてからポートランドの噂は色々なところから耳にしておりました。それは消費税がない都市であること、“全米で最も住みやすい街”と言われているところ、人間らしさを重視したライフスタイルが根付いている街とも言われ、大いに興味があったからです。実際に肌で感じてみたいと思ったのでした。



街を歩いて

ポートランドはいわばコンパクトな田舎街です。ニューヨークやロスアンゼルス、シカゴといった資本主義や大量生産・消費の渦が強くうごめいている都市とは真逆なイメージがあります。その対峙的な場所にあって、オーガニックやローカルにこだわったカルチャーが支持されており、街を見回しても世界中の都市にあるようなブランドショップの看板もなければ、大手ファーストフードチェーン店もないと言った感じです。地産地消や経済のローカル化といった、いわゆるローカリゼイションを徹底している様子がわかります。



旅行の楽しみの変化

これまで幾度となく訪ねている、パリやニューヨーク、香港、上海、或いは居住している東京といった都市にあるような刺激的な要素はポートランドには一切ありません。ゆえに、街を散策した限りでは、「なるほど、こういうところか。」という感想で、正直なところ、前回の電球ショップ以外は特に刺激的なものはなく、その結果、他の都市旅行でやって来たような“街歩きの楽しみ”を享受することはできませんでした。何だかんだ言っても私自身が消費経済の波間でぷかぷか浮いていたのだと気づかされ、少し反省しながらの滞在となりました。

ポートランドに流れているのはアメリカ経済のダイナミズムの中において、その影響を限定的に受け入れた、スモールコミュニティの文化なのでしょう。住む人たちの密度あるネットワークをベースにした心地よさが、感度の高い人々惹きつけ、かつてのNY SOHOやブルックリンといった場所のように注目を集めているわけです。そして先駆者たちによって、さらに地域の魅力が高められ、広く世界へ発信されるようになっているのだろうと感じました。



ホテルの部屋に帰って・・・

そんな感じで、街をすごく楽しんだ!という感じでもなく帰った宿泊先は、エースホテルというデザインホテルでした。従来のホテルとは違って低予算で古い建物をリノベーションして地域性を打ち出すスタイルで欧米7か所展開されているもののひとつです。ヴィンテージ家具や地元クリエイターとコラボして作られた内装はDIY的なカジュアルな仕上がり、作り込んだデザインというより人の手のぬくもりを感じるといった雰囲気です。

が、実際に来てみると、部屋は比較的広いのですが、シンクがドンっと部屋の一角に配置されていて、座り心地のよいソファーではなく固い木のスツールがあるだけで、寝そべられるのはベッドのみと旅の疲れを癒す部屋には程遠く、一見、期待外れに思えたその時、出逢ったものとは・・・?

photo by NASA's Marshall Space Flight Center

ホテルの部屋で、時を忘れて楽しめた、癒されたものがありました。それはテレビから流れる映像です。あるチャンネルで、国際宇宙ステーションからのライブ映像が放送され、宇宙空間から見た地球の映像が映っていたのです。後で調べたら、これはアメリカのケーブルテレビの一つのチャンネル「NASA TV」でした。

結構早いスピードで地球上の大陸が映像中に入っては過ぎていき、雲がサーっと流れていくのが見える時もあります。また、船内の様子に切り替わったりするときもありました。テレビ画面とは言え、見ているとそこにいるような気になり非常に癒されて、画面で眺めている内にあっという間に1時間が過ぎていました。

ホテルといういわゆる誰かが意図的にデザインした空間、しかもそれはハイセンスな家具や調度で構成されているような環境下ではなく、また窓の外には美しい景色が広がっているわけでもない・・・、そんな空間に身を置く小さな世界から、広い宇宙、そして青い地球を外から眺める時間だったのです。まるで、宇宙を遊泳しながら、客観的に地球の外から地球を見ている、自分を見ている・・・、そういう気分になれたのはすごく新しい感覚でした。

少し哲学的な時間とでもいいましょうか?旅先で味わった新しい気分、大きな宇宙の小さな一員であると感じたこと…この発見ができたのはポートランドの面白さなのかもしれません。その宵は、ヴィラメットバレーのピノノワールを独り占めして地球における光の未来を少し考えてみたのです。

 

※NASA TVはオフィシャルサイトからもライブ映像が見ることが出来ます。
https://www.nasa.gov/multimedia/nasatv/ 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




Vol.131
Vol.131 ポートランド旅行記・後編

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