Vol.32│ニューヨーク、3つの出逢い

絵の具に見たLEDカラーの確立

投稿日:2014,03,20

 

良い音楽、美味しい料理にあるものは?

最近購入したスピーカーの音がとても良くて、音楽を聴くのが楽しくなるという知人の話を聞きました。何でも、そのスピーカーでCDのクラシック曲を聴くと演奏しているそれぞれの楽器の音がきちんと聞こえてくるのだそうです。曰く、「音の層がとても厚く感じられる」というのです。

確かに料理などでも、その料理をはじめて口にした時から、時間の経過とともに味わいの印象が変化することがあります。美味しい!という表現の奥にはこのような複数の味わいのレイヤー(層)があるからなのだと思うのです。スピーカーの話も同様で、音の厚みが感じられる良いスピーカーで聞けば、臨場感も増すというものです。さて、この「厚み」の話は、私の担当する光の世界にも当てはまるように思います。実は、私も先日あるプロジェクトで照明の最終調整中にそれを実感することができました・・・・。





フルスペクトルの光

この話を進める前に、照明の専門家でない読者の皆様のために、光の組成について少しご説明いたしましょう。いわゆる可視光は、電磁波の中で人間の目でとらえられる約380〜780ナノメートルという波長域を意味しています。そして、この領域では紫、青、緑、黄、橙、赤と連続的に連なる色光で構成されているのです。(理科の授業でプリズムを使った実験を覚えている方もいるのではないでしょうか。)

プリズムで太陽光キャッチすると、中で屈折して壁などに虹色の光が映し出されます。太陽光は、紫から赤まで連続するすべての「色光」を持っているので「フルスペクトルの光」と呼ばれています。フルスペクトルの光は太陽光以外には白熱電球や特種な蛍光ランプなどがあります。今から15年ほど前になりますが、アメリカで赤・緑・青の光の3原色となるLEDを用いて、それらの混ぜ合わせ方によって自在にフルカラー照明をつくる試みがブームをおこしました。そのブームは今日でも、さらなる進化をしていますが、何となくおもちゃのような薄っぺらな光の印象になることもあるのです。

そうそう、話が少し変わりますが家庭用のPC接続プリンターのインクなのですが、かつては3色+黒が主流でしたが、最近は6色くらいの色インクを用意するタイプがでています。こちらの方が写真をプリントした時の発色がグンときれいに仕上がるというのが売り文句となっているのです。照明の世界もこれに似た傾向がでてまいりました。光の三原色+白色を混ぜることで深みのある色光を作ることができる・・・という発想なのです。




カラ―ライティングに深みを!


実はちょうど最近、建物の外壁のライトアップに色を使うプロジェクトがありました。通常時には、外壁は白色光に包まれている設定ですが、定期的に色を含む表現に変わるというプログラムです。このカラーライティングの実験をしているとき、まさに光の色と厚みについて気づいたことがありました。それはただ三原色をブレンドして作られた色光ではなんとなく奥行のようなものが感じられなかったのです。

そこで、この三原色に通常時用の白色光を少しだけ足してみたのですが、これが思った以上に素敵な色合いになっていくではありませんか。もちろん、白色光を足すと色味が薄まるのですが、そこは微妙なさじ加減で数パーセントくらいの割合で足すことで、グッと印象が良くなるのです。

元々、人間の目はかなり精巧にできているので、印象をつくる色光がどんな光の組成で出来ているのかを容易に見分けることができるのでしょう。同じ青色なのだけれど、何となくエレガントだったり、薄紫色がとてもおしゃれに感じたり・・・、あるいはほんのりとした薄紅色に上品な優しさを感じたり・・・。色を感じる光の世界は、これからもさらに深みをましていくことになりそうです。


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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。





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