Vol.49│“アルデンテ”なパスタと照明の秘密

失敗しないアルデンテのコツ

投稿日:2014,04,17
photo by Mrs Mac2007

 

がっかりなパスタ

みなさんはイタリアンなお店でパスタを注文した時に、なんだか歯ごたえのないうどんのようなパスタが出てきてガッカリした・・・という経験はないでしょうか? 私は以前、ニューヨークから車で2時間程離れたペンシルバニア州の田舎街を訪れたときに、久しぶりにパスタを食べよう!ということになり、現地の方に連れて行かれたイタリア料理店でこういった柔らかすぎるパスタが出てきて、とてもがっかりしたことがあります。

確かにそのお店は“イタリア料理”と看板には掲げているものの、メニューには、ハンバーガーやらステーキなど、実に“アメリカン”なものもありましたから、本格的なイタリアン=アルデンテに茹でられたパスタを期待するほうが野暮だったのもかもしれません。しかし、日本ではそんなに高級な店でなくてもきちんとしたアルデンテのパスタが出てくるお店はたくさんあります。では、その違いとは一体何なのでしょうか? 今回は、ほどよく茹で上がった“アルデンテ”なパスタに例えて照明の話をしてみたいと思います。





パスタのコシは麺にアリ?

最近、聞いた話によると、そもそもイタリアでいうパスタは、「デュラム・セモリナ粉」という特定の種類の小麦粉で作られているのだそうです。そして、この原料である粉にこそ茹であがったパスタにコシを与える秘密があるようなのです。デュラム小麦のセモリナ粉(粗挽き粉)はパンなどに使われる小麦粉とは違い、非常に硬く弾力性があるので、茹でたときにしっかりとしたコシが出るのだそうです(ちなみに日本人が好きな柔らかいパンやうどんはしっとりもちもちとした質感の小麦で作られます)。

さらには、本場イタリアでは乾燥パスタはこのデュラム・セモリナ粉100%でしか作ってはいけないという法律まであるらしいのです。イタリアの知人によると、美味しいパスタの乾麺を選ぶには、「デュラム・セモリナ粉100%」の表示を確かめると良いようなのですが、そういった乾麺はパッケージ表示の茹で時間通りに普通に茹でるだけで、特にコツもなく全く失敗なくアルデンテに仕上がると言うのです。ということは、いつ行ってもグズグズに柔らかくなったパスタを出すお店は、茹で方に問題があるのではなく、このパスタ選びを間違えているのではないか?と考えるのが正しいのでしょう。



間違いのない照明選び

実は照明デザイナーもこのデュラム・セモリナ粉のパスタのごとく、確実に光のアルデンテが決まるような素材選びを事前に行っているのです。

たとえば、室内に使うダウンライトでも、その環境によって使い分ける必要があります。一般的な建物の天井の高さならば、直径15センチくらいの効率の良いダウンライトを使いますが、壁際の一列にはそれと同じ見かけのウォールウォッシャ・ダウンライトを選んで壁全体が明るく照らされるようにします。一方、吹抜けなどの天井の高い空間では、挟角配光(スポットライトのように絞られた光)のダウンライトをスペックいたします。

この選定をその現場を見て随時行うのでは合理的ではありませんから、ライトデザインではそれぞれの空間に見合った照明器具を実際に点灯試験させ、「よしこれならばOK!」と認定した照明器具を、「ライトデザイン特製照明器具集」=スペックシートとしてまとめてあるのです。また、一度作ったスペックシートが常に良い訳ではなく、照明器具は新しいものがどんどん開発され新たに構築されていくものなので、それごとに再度選定しなおしてシートの内容を更新しておくということも行っているのです。

重要なことは、普通の使い方さえすれば必ず、「アルデンテな良い茹であがりかた」になる素材にこだわっていく点にあるのです。このスペックシートは各照明デザイナーで共有しているようなものではありません。パスタにおけるデュラム・セムリナ粉は法律で規定されていて一般的な常識となっていますが、照明の世界では未だそこまでは行っておらず、それぞれのデザイナーが良いと思っているものを選んでいるので、逆にそこにはデザイナーの個性が見いだせるかもしれません。
優れた光を発する照明がバシっと決まる“アルデンテ”的な光は、こうしたきちんとした素材選びにあるといってもいいでしょう!


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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。





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