Vol.52│光るには訳がある

無駄に光っているワケじゃない!

投稿日:2014,06,05
画像出典:Gigazine

 

NASAの宇宙服

先日、ニュースWebサイトを眺めていたら、ちょっと気になる話題を見つけました。それは、アメリカのNASAが次世代宇宙服のデザインを発表したというものでした。現在、アメリカは2030年代までに火星に人を送り込むという何とも壮大な目標を掲げており、その一環として、将来、火星探査を行うときに探査隊が着用する宇宙服の開発を進めているのです。デザインは3案まで絞りこまれていたのですが、正式デザインをどれにするかを、インターネットによる一般からの投票を募って4月末に無事に決定したというものでした。

選ばれたのは上記写真の真ん中のデザインで、胸の所に水色に光る大きなY字が配されています。最終の3案に共通しているのは、デザインは違えど全て体が光るように出来ているということです。光のソムリエとしては、もちろんそこに興味をひかれた訳ですが、では何故、宇宙服が光る必要があるのか? そもそも光るもの達は何故に光るのか? 今回はそんなことを色々と考えてみようと思います。





光る生命体

photo by kiki19710107

光るもので、まず真っ先に思いつくのが、ちょうどこれからの季節の風物詩であるホタルです。前回のブログの後半にお話した、パプアニューギニアの電気の通っていない島の取材というのは、そこには沢山のホタルが集まってくる木があり、それを照明デザイナーが実際に見てヒカリとは何か?について考える・・・というテレビの企画だったのです。

都会のような街明かりが一切なく、自然の真っ暗な中にそびえ立つ大きな木に何千ものホタルが集まり、木全体が光る様子はとても幻想的なものでした。このホタル達が光るのは、オスがより強い光を発してメスに受け入れてもらうという求愛行動です。他に光るといえば、写真のようなキノコもあります。これは暗闇で光って虫をおびき寄せ、胞子を遠くに運んでもらうのが目的だと言われています。

それから、海ではホタルイカなんていう生き物がいます。彼らが光るのは自分に危機が迫ったとき、他の海洋生物に食べられそうになったときに、光を発して驚かして身を守るためと言われているのです。逆にチョウチンアンコウは光で小さな魚などをおびき寄せて、食べるのが目的のようです。

 



光るニンゲンたち

自ら光るのはNASAの宇宙服同様、私たち人間も光るようになりました。宇宙服が光る理由を考えたのですが、宇宙空間というのは地球上と違って“闇”の空間なのです。つまり闇の中での宇宙船外作業となるので、人間自らが光る必要があるのでしょう。

しかし、最近はこういった過酷な環境でなくとも私たち人間は光っています。もれなく、私もその一人で、上記の写真は2013年に行われた照明の見本市「ライティングフェア」のキックオフパーティーでの一幕です。私が着ているのは音に反応して光るTシャツで、パーティーを大いに盛り上げようと思って着たのでした。こういった光る洋服はフセイン・チャラヤンといったハイブランドなども発表しており、ファッションのひとつにもなっています。
 
こうして色々と“光るモノ”を見ていると、すべて命と関係していることがわかります。光る生命体たちからは繁殖、捕食目的や危機回避といった目的がわかりますし、宇宙服も危機回避のひとつでしょう。別に光らなくてもいいんじゃないの?!と思う諸兄がいらっしゃるかもしれませんが、必ず理由があるのです。これは照明デザイナーが仕事対象としている建物の光についても同様のことが言えます。

大きな建物であれば、もし夜間に何の光もないと、大きな闇を作ってしまいます。夜闇のなかに何の光も発しない大きな物体がそびえ立っているのは非常に恐ろしい存在感となっていきます。山や大木、森などもそうですが、それらが巨大であればあるほど、それは計り知れない恐怖心を煽るので、緩和するためにも建物に光を与えるのでしょう。

ところで絵画という芸術の起源には、ヒトが持つ「空間恐怖」があったという説があるそうです。何もない空間は、よりどころが見当たらず不安感のみが募ります。そこでヒトは壁や天井に絵を描くようになりました。洞窟に壁画が描かれたのはそれを示しているというのです。建物が夜間に光ることも似た様な理由なのかもしれません。

エネルギーの問題に国を挙げて取り組んでいく流れの中で、光る意味というのは、今後ますますシビアに問われていくことになるでしょう。無駄な光は淘汰されていく…それは、照明デザイナーにとっても良いことだと思っています。


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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。






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