投稿日:2014,09,11
“ブラックカーボンナノチューブ”
最近、照明デザイナーという職業上、大変気になるニュースをインターネット上で発見いたしました。それは、光を全く反射させない(光の反射率0.035%)真っ黒い物質が開発されたというのです。その名も「ブラックカーボンナノチューブ」というものです。イギリスのとある研究室で完成したという話題を知ったのです。
ちょっと考えてみましょう。私たちの身の回りにはさまざまな黒い物体を見ることができるのですが、それらは、白でもなくグレーでもなく、それらよりただ黒いだけの素材なのです。仮に「本当の黒」という色があるとしたら、それは、いつどんな時でも光を反射することはないものでしょう! つまり、私たちは日常的に“黒色”と言っているのは、白やグレーに比較して「それなりに黒い」と言っているにすぎないのです。それ故に、それらは、黒い物体としての素材感やテクスチュアなどを感じることができるのです。
しかし、物体の表面で光の反射が全くなくなるとすれば、その物体はもはや「モノ」ではなく、ただの闇、すなわち空間に開けられた穴となってしまうのです・・・。
今回はまず、その辺りから闇の話題を掘り下げてみたいと思います。
まるでブラックホール?!
そもそもカーボンナノチューブというのは、半導体など、おもに電子部品のへの応用が研究されているナノ炭素材料と言われるもので、その特性からさまざまな企業での研究や実用化が進められています。そしてこの度、あるイギリスの企業がカーボンナノチューブを応用して、世界で最も黒い物体を作り上げたわけですが、反射率が0.035%というのはかなり低いもので、光をほぼ反射しないと言ってもいいくらいの数字です。“光を全く反射させない”というのは直観的には想像しにくいものでしょうが、いうなればブラックホールのような物体が出来たという感じです。
こちらはアルミホイルにブラックカーボンナノチューブを塗ったもの。アルミの光反射を塞いでしまっているどころか、黒く塗られてる部分も一切光っていないように見えます。(画像出典:EXTREAM TECH)
ウェブ上に公開された実際の写真を見てみましょう。確かに、黒い部分には凹凸感が全く感じられませんね! そうなるとこの黒い部分は、アクリルのトレーやその下のテーブルに開けられた穴・・・もしくは闇ではないか?そんな気がしてまいります。
これは今までになかった不思議で面白い感覚だと思いす。そこで即座にこの素材の応用を考えてみました。
たとえば能や人形浄瑠璃で登場する黒子の衣装がブラックカーボンナノチューブで出来ていたら・・・、本当に“見えない”黒子になるかもしれません。
あるいは、ファッションショーで真っ白な空間に真っ白いランウェイを作り、そこにモデルさんがブラックカーボンナノチューブで出来た黒いドレスを着たら、もしかしたら“闇”をまとっているかのような・・・それとも真っ白い空間に開けられたヒト型の穴が移動しているだけに見えてしまうのかもしれません。
照明業界にも期待
そのほかにも、たとえばプラネタリウムに応用して完全な黒天井を作ったり、はたまた闇迷彩に・・・なんて、いろいろな想像が膨らみますが、もちろん照明デザインの世界にとっても、かなり画期的な変化が期待されます。
たとえば、照明器具のランプが設置されている内側側面は不要にランプの光が反射しないよう黒く塗られています。しかし、その部分は光源に極めて近いので、わずかな反射率であっても、やはりある程度は光ってグレアを発してしまうのです。しかし、その部分に応用すれば全くいらない光を排除することが可能になり優れた性能を持った照明器具が登場することでしょう。
光の空間デザインへの応用としては、以前こちらのブログでもご紹介した、出来るだけ真っ暗な空間を目指した「リカバー(闇のバー)」に使うと面白いかもしれません。この時は黒いビロードなどを使って、壁や天井がなるべく光を反射しない空間を作り、照明がある所だけポッと光が浮かび上がっているかのように仕上げました。しかし、ブラックカーボンナノチューブがあれば、もっと完全なる闇空間が再現できるはずなので、さらに深みが増す可能性が十分にあるのです。
さらに光学技術への応用としては、明かりの広がり方などを測定する際に使う照明計測室は壁や天井を黒く塗ってあるのですが、わずかながらも反射はあったので、ここに使用されれば、かなり正確な数値を割り出せることになるでしょう。
そして、照明デザインへの応用は?というと・・・
これまで長い間、照明デザインとは、闇のキャンパスに光の絵の具を使って描くようなものだと説明してきたのですが、ひょっとすると、この先は、白い光の空間に、ブラックカーボンナノチューブで出来た光を吸い取る器具(闇マシーン)を用いて空間に不要な光を吸引して闇を描く・・・そんな新しい感覚のデザインをよびおこすのかもしれません。
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