初めて気づいた
「東海林さん、ガーランドライトってどう思いますか?」
私に向けられた突然の質問に思わずうろたえてしまったことがありました。照明業界に30年ほど在籍しているのに、私の頭の中には「ガーランドライト」という引き出しがなかったのです。
「それはどんなものですか?」と聞き返して、それはクリスマスの電飾コードに小さなぼんぼりが付いたようなアイテム・・・ようやくその姿がイメージできたものの、私にとっては全く関心のないものであったことに気付かされたのでした。世の中には多種多様な照明器具がありますが、私の関心を全くひかない、いわば“どうでも良い”照明器具があったとは・・・そのことに少し驚いた・・・、そんな出来事があったのです。
ガーランドライトとは何ぞや?
ガーランド(Garland)とは、頭や首につける花輪や花冠。豊饒・勝利などの象徴という意味があって、転じて何かを繋いだ紐飾りもガーランドと呼ぶのだそうです。私たちがよく目にする例としては、クリスマス用の電飾コードライトということになるのですが、光源の部分をむきだしのままにするのではなく、樹脂や紙で作られたぼんぼりで覆われたようなアイテムを示すのだそうです。
そう聞けば、街の雑貨屋さんなどに売られているのを見たことがあるでしょう?・・・確かに思い起こしてみれば、ちょっとロマンティックな女性が好みそうな雑貨屋さんにそういった商品がたくさん売られているのを見たことはあります。しかし、改めて考えてみたのですが、このガーランド照明は、私にとっては全く関心のない照明器具に位置づけられたのでした。
照明デザイナーだからと、どんなライトにも興味を示しているわけではありません。どちらかというと、「いらないもの」くらいの感覚で、今まで気にも留めていなかったという感じです。
理解できないと言わないで・・・
お部屋の飾りつけするといった発想は、幼稚園を卒園するときにきちんと箱にしまって置いて来てしまったので、こういった趣味はまったく理解できないというのが正直なところです。それ故に「いらないもの」として頭の中で分類され、今まで気にも留めていなかったのかもしれません。
照明デザイナーが考える照明器具というのは、「空間を光の陰影で表現するために必要な光を発する道具」が照明器具なのです。また、一歩譲って、「光を放つ家具」すなわち、スタンドライトや光オブジェも照明器具と考えられます。しかし、それ自体が発光してデコラティブ!かつ趣味的な装飾がたまたま光ったものは、断じて照明器具とは考えられない!というのが私の主張?なのかもしれません。
さて、確かにこれまでは、そう捉えてきたのですが、私もそれなりの年齢でございます。せっかくの機会ですから、この光る装飾アイテムをデリシャスライティングの新しいレシピとして考えてみることにいたしました。
まずは、第一のツボですが、水平に固定しようとすると、どうしても重力によって垂れ下がってしまいます。そしてこの垂れ下がりが良い!とされる方もいらっしゃるでしょうが、私にはそれが許せないので、垂直に下げてみました。それも何本も何本も・・・
ここまで考えて、ふと思い出すのが、今から10年ほど前に六本木で私がおこなったインスタレーション&パフォーマンス「食うカラキネ展」です。どうぞ写真をご覧ください。これは、当時新発売されたカラーキネティクス社の自在に色を変えることができるひも状の照明器具を垂直につるしたのです。光源部分には、綿で作ったテニスボール状のディテールを施したもの・・・まさしくガーラント照明ではありませんか!
「食うカラキネ展」
photo by Toshio Kaneko
冒頭に「いらないもの」とか「全く関心のない」とか「どうでもよい」などと申してしまいましたが、その言葉全面撤回させていただきます。世の中に不要な照明などないのかもしれません・・・。クリエーターたるもの自分の世界を狭くとらえずに、どんどん広げていかねばなりますまい!
― DATABASE ―
「食うカラキネ展」 (2004年3月5日開催)
六本木Super Deluxeを会場に行われた光のインスタレーション。主催のカラーキネティクス社の新製品「FLEX」をお披露目するイベント。東海林弘靖の企画アイディアで実現し、コラボレーターとしてフードディレクターの長尾智子さん、福田里香さんを迎えて食と光の饗宴をテーマとした。縦につるされた紐には10センチピッチでテニスボール状の綿がつけられ、その一つ一つがコンピューターからの信号で色を変えることができる。この紐は、約1メートル四方に空間を埋め尽くすように設置され、あたかも光の空間を体験することができた。DJカスガアキラの音に合わせて、東海林弘靖がLJ(ライティングジョッキー)として光のシンセサイザーを演奏した。21世紀が滑り出し、未来の光空間が人の人生の価値すらも変えていくに違いない・・・そんな思いをぶつけた熱い夜となった。
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