Vol.101|イタリア発の注目デイライト照明

太陽が欲しい!
投稿日:2016,06,24
photo by Athena Iluz

梅雨の季節に考える光

東京はちょうど雨の季節です。雨に濡れた紫陽花の風流なイメージは良いのですが、一日中雨が降っているのを見るのは少々陰鬱な気分になってしまいます。さて今日は、こんな季節に考える自然光の話をしてみたいと思います。



ユニークなデイライト照明

先日、FACEBOOKでシェアされていた面白い照明がありました。また偶然ですが、そのシステムを取り入れたいのだが検討してほしいという事業主からの依頼があったのです。そのシステムというのは、イタリアのベンチャー企業が開発している太陽の光を再現するLED照明システムなのです。

プロジェクト写真を見てみると、部屋の天井や上方にある窓には綺麗な青空が見え、そこから部屋に日差しが射しているではありませんか? 天井を四角く切り取った穴の向こうに見える青空は本物だと見誤るほどです。



リアルな“自然光”の仕組み

昨今の日本の照明シーンでは、色温度調光が流行っていて、例えば昼間は昼間の自然光のように色温度を5000ケルビンにするけれども、夜間には夕陽のように色温度を下げていく・・・・、などといった自然光に則した色味の調節ができるようになってきました。これは、かつてほどコストがかからずに具現化できるようになり、人の体内時計正常化への貢献に期待が高まっています。

しかし、今回のシステムが面白いのは、①太陽からの直射光と、②天空からの拡散光という二つの光の組み合わせで再現しようとしている点なのです。太陽の直射光は4500Kですが、天空からの拡散光は8000Kです。昼光というのは、正しくはこの二つの光から成り立っているので、昼間の光を単純に5000Kと考える従来のシステムから大きく進歩したことになるのです。何だか良さそうですね!



太陽光のイメージ

ところで、太陽の光を建築の内部に導きたいという依頼は昔から何度も受けたことがあります。だいたいそのような依頼は、その空間が地階にあり窓がないか、または窓があっても距離が離れていて、窓からの光が届かないといったケースです。

そんな時には、建築的にトップライト(天窓)やライトウェルと呼ばれる採光用の吹抜けを計画するのですが、それらは壁面の窓と違って設置すればそれで済むというものではありません。たとえば、太陽の位置は時々刻々と変化しますし、季節によっても異なります。また、雨天や曇天の時にはそこから入ってくる光は極めて少なくなってまいります。照明デザインは、そのような状況を把握して光を見てゆくのです。

ところで、そんな仕事を何度かして気づくのは、自然光の導入へのこだわりの背景に、光量ではなくて太陽光のイメージを欲しているのではないか?ということです。私たちは、燦燦と降り注ぐ太陽光のイメージが好きなのであって、本当に燦燦と降り注ぐ環境は暑くて暑くてしようがないのでしょう。そこで、光が入って影を生む・・・、そんなイメージに期待したいのではないかと思うのです。



人間は太陽の心地よさを求めている

秋葉原UDX(東京)
photo by Toshio Kaneko

かつて私も人工的なデイライト演出を手掛けたことがありました。それは、東京・秋葉原にある複合商業施設で、そこは地下2階から地下4階まで3フロアに渡って大きな駐車場になっているのです。あまりに巨大な空間で、その中央に走る歩行者通路をわかりやすくしなければなりませんでした。そこで思いついたのが、地下空間なのに、太陽の光が降り注いでいるかのような表現ができないか?という発想です。館内エレベーターで地上から地下フロアのボタンを押し、ドアが開いて外に出ると、屋外のように明るいので、まるでそこに太陽光が降り注いでいるかのように錯覚してしまうほどで、なかなか好評を得られた照明デザインでした。

話を新しい人工自然光演出装置に戻しましょう。
カタログによると、昼光は、三つ選択できるというのです。まず一つは地中海の光、もう一つは赤道直下の光、そして北極圏の光。天空光の色味と直射光の照射角度の違いによるもののようですが、とてもいい発想だと思います。行ってみたい場所の光が再現できれば、実際に旅をすることのできない人も、その場所の光を体験することができるというのは、高齢化社会が進む世界において期待が高まります。また、この梅雨の日本に持って来たら、ぐんと知的生産性が向上したなどという事例がそろそろ出てきたりするのではないでしょうか…。なかなか興味深い代物の登場です。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




Vol.101
Vol.101 イタリア発の注目デイライト照明

Vol.102
Vol.102 デザインのシンプル化

Vol.103
Vol.103 照明と夜と経済の関係?

Vol.104
Vol.104 8月12日からの展覧会

Vol.105
Vol.105 照明リテラシー

Vol.106
Vol.106 トイレ照明が面白い

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Vol.107 照明に欠かせない“アソビ”

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