Vol.107|照明に欠かせない“アソビ”

照明に欠かせない”アソビ”
投稿日:2016,09,28
photo by Julien REBOULET

“アソビ”とは?

こんにちは、東海林弘靖です。今回のブログは照明における“遊び”について考えてみたいと思います。
しかし、これは「どこかで友人と楽しく遊ぶ」のあそびではなく、自動車などのアクセルやブレーキに与えられた「余裕のある動き」を示すあそびのことなのです。通常私たちが乗る自動車は、アクセルを踏むとすぐに反応して車が加速するわけではなく、ある程度踏み込んだあたりから動き出すように調整されています。この、“ある程度の踏み込み部分”がいわゆる遊びと呼ばれるものなのです。

私たち一般の運転者はF1レーサーのような1ミリ単位での踏み分けるアクセル技術がないので、アクセルを踏んでも車が即座に動かない「遊び」があることで、「ついうっかり・・・」という事故を回避するために非常に重要な工夫となっているのです。そんな遊びと呼ばれる、必要不可欠なゆとりですが、さて照明デザインにおいては、どのような遊びがあるのでしょうか?



スケジュールの遊び

照明デザイナーが関わっている分野としては、主に建築・建設というジャンルです。この切り口から考えられるのは、その工事のスケジュールに関する“遊び”を発見することができるでしょう。これは、プロジェクトの進行にゆとりをもって計画を立てないと何かの問題や予測のつかない事態が起きた場合に工期内に対応することができなくなってしまうからです。

建築現場の出入り口が隣の家の車を出し入れしづらくなったので変更だとか、地面を掘っていたら昔の遺構が出てきて、調査をしなくてはならなくなった・・・といった事態が起こることもあるのです。照明のデザインや工事についても、そういった不測の事態に対応できるような体制をとってプロジェクトを進めています。この空間には設計上この光環境が最適だけれども、完成した後に違う使い方になった時には、照明器具の照射角を変更すれば、ある程度の対応ができる・・・といった「先読み」によるスペックが遊びというのかもしれません。



明るさの遊びとジレンマ


photo by John Watson

また、照明の世界では明るさの調整における遊びがあると思います。照明は電気を使って発光させるという仕組み上、通常100%で点灯させたところから、少しずつ暗くする調整は可能です。しかし、テレビの音量を上げるように、100%で点灯しているところから、もう少し明るくしたい・・・というリクエストに応えることはランプの明るさに上限があるので構造上できないということになります。

そこで、最初に照明器具の明るさを決める場合、ゆとりをもって明るめのものを選んでいけばよいのでは?と考えることができます。このゆとり、なかなか良さそうに思えるのですが、ここでジレンマとなるのが、ついつい安全率をかけすぎて、明るい側のランプを選定しがちになることです。最終的に出来上がる空間のことを考えると、明るさの幅にある程度の遊びを作っておいて、そこを削っていくという場合、ではどれくらいの遊びを見ておくかが難しいところなのです。



ちょうど良い遊びの具合

車のアクセルの話に戻って考えてみたいと思います。ドライバーが車をスタートさせるときに、アクセルを結構踏み込んでいるのに動かなかったら、それは大変運転しづらいものになってしまいます。最初に軽く踏んでも動かないけど、そこから意識してもう一段階深く踏み込むと今度はレスポンスよく動き出す・・・、その時の遊びの感じはせいぜい10パーセントくらいなのではないかと考えます。

1割の遊び・・・2割や3割の遊びは、かえって使い勝手が悪くなるのでしょう!照明デザインにおいても、10パーセントほど調光して使う遊びは丁度よいように思えます。それは、光源にかかる電気的な負荷が減るので照明器具から発生する熱も低くなり、照明器具の寿命も長くなる傾向に進みます。
 
また、照度の設定についても何ルクスの明るさにしようというターゲットを10パーセント上回るくらいの遊びをもったところでスペックが成立するのがちょうど良いと感じます。照度計算をする際に、保守率という数値を掛け合わせるのですが、これは、照明を点灯させてから経年のうちに次第に照度が低下する率をあらかじめ考慮して計算をしましょう!という考えです。

そしてこの数値なのですが、LEDが普及する前までは、白熱灯で0,8,蛍光灯で0,7となっておりましたが、LED照明全盛の今日では、0.9 すなわち、2割 3割の遊びから1割の遊びに修正されたのです。その理由は、LEDが長寿命で初期の光の量が減衰しにくくなったからなのです。こう考えると何においても10パーセントの遊びというのは、なかなか良い指標なのではないかと考えます。
 
と、ここまで書いてみてふと子供のころを思い出しました。その昔駄菓子屋さんの店の中でガラス瓶の中に入っているお菓子を量り売りしてもらうときに、お店のおばさんが、はかりの針がきっちりと100グラムを超えたことを確認したうえで、「はいこれはおまけだよ」といってあと少しお菓子を救い入れてくれたことを思い出しました。ほんの気持ちの追加・・・それもおそらく10%程度だったのかもしれません。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




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