Vol.82│照明は、設備からサービスへ

電球の寿命が変えるもの
投稿日:2015,09,04
photo by CERTs

LEDがスタンダードになると・・・

このブログでは度々、消えゆく白熱電球の良さを振り返りつつ、それに迫るLED照明のクオリティ向上について繰り返し述べてまいりました。今やLEDは、照明用光源として標準的な存在となっているのが日本の現況ですが、「LEDは未だ発展途上の光源である」という私の考えは変わりません。それは、光のクオリティという点、ランプ寿命が長くなったことによるメンテナンスの考え方が揺らいでいる点、調光システムが複雑になっている点などがあるからです。

今日は、その中でも近い将来に電球および照明器具の「商品としての在り方」が大きく変わってくるのではないか?という私見を述べてみたいと思います。

 



“電球交換”は過去のもの?

photo by The University of Iowa Libraries

LED電球の寿命は4万時間と言われています。一日に10時間点灯させると、一年で3650時間、10年間で36500時間となりますから、つまり10年くらいの寿命ということになる訳です。その間、電球を変える必要がないとなれば、それはユーザーにとっては、一見嬉しいことではあるのですが、照明産業としては、いやユーザーにとっても実は忌々しき問題を抱えているのです。
 
寿命が2000時間の白熱電球であれば1年もたたないうちに切れてしまう計算なので、そのたびに新しい電球に取り換える・・・すなわち、ケアをして光のクオリティを維持するという作業が発生いたしました。この作業は、面倒なことだと見られる一方で、照明のクオリティを享受するための必要不可欠なものとして、誰もが疑わないコンセンサスを得ていたのです。また、メンテナンスのタイミングを狙って、より良い電球を買っていただきたいという照明産業内での競争も発生して活気を呈しておりました。その秩序、体系が崩れてきているのです。 
 
10年間切れない電球というのは、見方をかえれば、私たちが10年間その電球を使い続けなければならない縛りを受けている・・・ということにもなるのです。LED電球の発光効率や演色性は毎年どんどん上昇していて高性能化が続いています。数年前に購入した古いLED電球をあと7、8年使い続けなければならないと考えると、長寿命ランプが必ずしもうれしいことではないと理解することができるでしょう。
 
そこでふと、思い出したのが、まだ日本の家庭に電気が通ったばかりの時代に、「電球交換所」というものがあったという話です。

電球は一家屋にひとつ程度しか設置されていないという状況で、電気料金は現在のような従量制ではなく、「電灯ひとつあたりいくら」という定額制でありました。電球は貸与制をとっていて、電球が切れた時には「電球交換所」という看板のあるお店に行き切れた電球と引き換えに新しい電球を貸与されるというシステムだったのです。当時は、限られた電気を節制しながら享受するためのシステムだったように思えますが、照明の価値が明るさの希求から少し離れて、心地よい光のサービスを求める時代に入ったと考えれば、現代にあった新しいサービスのヒントが見えてきます。

 



電球を買うから、光のサービスへ

ここで少し、近未来のビジョンを述べてみましょう!
たとえば、私が「元気が出る照明」として、空間内の光の配置、照度、色温度、時間軸でのシーンの変化などをデザインしたとします。この照明サービスというパッケージは、インターネットを通して誰でも簡単に購入することができるのです。購入すると、電球セットとスマートフォンのアプリとパスワードが送られてきます。そして、それらをセットすると、「元気が出る照明」の効用を楽しむことができるのですが、その料金体系は月極の定額制となっている・・・そんなイメージです。

1年ほど使用して、もっと良い電球が完成した時には、アップデートされた新しい電球と交換ができるのです。つまり「元気が出る照明 バージョン2」が出た場合は、無償で現在家の中に搭載中の「元気が出る照明」をアップデートしてくれるというサービス体系となっているのです。リビングルーム一部屋での使用料金はひと月400円、これには電気料金も含まれていたりします・・・。
 
LED電球の寿命にあたる10年というのは人間にとっては長い期間ですから、その間に生活スタイルが変わることは十分に予想できます。結婚したり、子供ができたり、子供の成長も結構早いものです。また、もちろん、室内の趣向を変えたいという希望も出るでしょう。また転勤による転居もあるでしょう。そこで、新しい環境で新しい照明スタイルを楽しむサービスが必要です。その時には、また違う照明パッケージに契約内容を変えて、対応していくというのはいかがでしょうか?
 
また、回収された古い電球は、まだ十分に寿命があるので、例えば、倉庫やバックヤードのようなシンプルな目的の空間用にリーズナブルな価格の照明パッケージとして、二次利用するビジネスも考えられるのではないかと思います。
 
このように、LED化された今後の照明産業は明るさを生み出す照明器具や電球を製造販売するというビジネスモデルから、より良いライフスタイルを求めるユーザーのために、光による価値を享受することを目的としたサービス産業へと進化するのかもしれません。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




 

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