Vol.89|グランクラスは、美味しい照明で…

“最上級空間”で感じたこと
投稿日:2015,12,25

話題のグランクラスを体験

今年は海外、国内を問わず、とにかく沢山の土地に赴く機会が多い一年でした。仕事で訪ねた中国の都市のほか、秋にはヨーロッパの照明器具メーカーを訪ねる旅をいたしました(この話は次回にお話しします!)。国内での旅は、真冬の札幌・定山渓に始まり、福岡、大阪、京都、広島、愛媛、岩手、金沢・・・を旅しました。しかし、その大半は旅というよりも仕事のための慌ただしい移動でありましたが、その中にも、少しだけ移動の方法に工夫を凝らして、楽しみ時間を用意しておりました。

それは京都の現場から金沢での「レクチュア」を経て、東京に戻る・・・というスケジュールをつくるときでした。京都で一泊して、早朝の京都駅から金沢行き特急サンダーバードに乗り込み、日本海沿いに金沢に入る・・・という少し情緒のある移動をしました。そして金沢で仕事をして、その晩中に東京へ戻ったのですが、金沢から東京へ戻る際は、この春開通してから話題の北陸新幹線「かがやき」の最上級シート「グランクラス」に乗ってみることにしたのです。



シートと窓

まず、車両に乗り込んですぐに気づくのは、結構ゴージャスなインテリアの作りになっていることです。シートの配置の仕方は、グリーン車なら通路を挟んで左右2席の合計4席ですが、この車両は通路を挟んで、一人掛けの席の列と二人掛けのシート列が並ぶ合計3席となっていました。しかも、座席自体のシートピッチが広く、前後も非常に余裕があり、ラグジュアリー感が漂います。もちろん、シートは革張りで十分なリクライニングができるようになっています。

よく見れば、窓側の座席は全て、シートに対して一つの窓が必ずあるように配置されています。普通車ではシートに対して窓が必ず良い位置にある訳ではなかったりするものですが、グランクラスのシートはしっかりと窓からの景色を楽しめるようになっていました。さらにこの窓は枠の部分に間接照明が仕込まれていて、色温度もぐっと低めです。照明デザイナーとしても上機嫌で、まずはシートに腰かけました。通路をよく見ると座席の下にフットライトのような光が仕込まれ、床が絨毯なので、まるで「デリシャス・ライティング」で提案しているフライングソファーのような効果が得られています。



席でのおもてなし

席についてしばらくすると、車掌さんが乗車券を拝見・・・ではなく、飛行機のような女性の客室乗務員さんがやってきて、おしぼりを出してくれるのです。それから、このグランクラスでは「この時間帯はお弁当がついております。和食と洋食、どちらがよろしいでしょうか?」と各座席にメニューを渡しながらアテンドしてくれるのです。さらには、「お飲み物は何がよろしいでしょうか?」といった具合に・・。

早速、私は和食に合わせて白ワインを頼んでみました。お弁当は、日本海の幸をしっかりと取り入れた好感度の高いもので、ワインは小さなボトルで出され、ラベルにはグランクラスのロゴが入っています。



食事を楽しむには・・・

落ち着いた間接照明の空間で広いシートに座り、飛行機の上級クラスのようなサービスで食事を出されて、なかなか上機嫌・・・、さて、ここで私が期待したのはやはり光でした。

良い感じの食事とお酒を前に出されたら、それを美味しそうに照らす照明が必須です。そこで、シートの周りを確認すると、ヘッドレストの後ろからフレキシブルタイプのライトが前方に伸びています。これを点けたら、食事がパッと華やぐだろうと、スイッチをいれたところ・・・、そこからは色温度が高く、演色性の悪い真っ白な光が放たれたのです。

フレキシブルライトでテーブルの食事を照らしたところ。

これはイケマセン・・・、色温度が高く、演色性の悪い光。そしてお弁当の影をあまりにもダイナミックに投げかける照明手法・・・。これらは、せっかくの食事を不味そうに見せてしまっています。

いや、これは食事用ではなく読書灯だったとします。しかしながらそれでも問題なのです。これは、眼球の水晶体に濁りが出てしまうご高齢の方にとっては乱反射を起こして読みづらくさせる光です。いずれにせよ、せっかく良い気分で食事をサーブされたのに、またグランクラスという“最上級”にこだわった空間なのに、あまりにも照明が残念です。先日乗った日本の航空会社の照明も「当機はLEDの照明にしました!」とでもいいたいのか?と思うような白い光でありました。

どうも日本のホスピタリティは、ちょっと間違っているように思えてきます。私なら、美味しいお弁当と気の利いたワインを提供する時に相応しい「おいしい光」を、あたらしい光の技術を用いて演出するのになぁ・・・!と考えます。グランクラスをうたう空間において、光が軽んじられているという事実に、さっきまでの上機嫌が半減してしまいました。照明デザイナーとしてやらねばならないことは、まだまだたくさんあるなぁ・・・。そんなことを考えながらの帰路となったのでした。

さてさて、皆さま、今年もこのブログをご愛読いただきましてありがとうございました。今年のブログはこれにて最後になりますが、次なる申年には、より機敏に世界を動き回って楽しいお話をお届けしたいと考えております。来年もどうぞよろしくお願いいたします。来る2016年が皆様にとって素晴らしい年となりますように・・・・。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




 

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