投稿日:2015,11,12
photo by Jeff Krause
ふと、気づいたら・・・
こんにちは、東海林弘靖です。本日はまず上の写真をよーく見てみてください。何か気づくことはないでしょうか?
・・・そう、天井にきれいに円を描いている電球のいくつかが切れているのです。今までの白熱電球が主流だった時代ならば、まあ当然、「ランプが切れちゃったのですね!いち早く取り換えましょう!」とごく普通のことで、すぐに脚立を用意して、電球を取り替えるという行為が日常茶飯事のことでした。では今日、寿命1000時間程度であった白熱電球から寿命の長いLEDに置き換わったので、もうこの面倒な電球交換に悩まされることはないのでしょうか?
一般住宅の照明であったら、確かにもうあまり電球交換に悩まされることはないでしょう。LED電球の寿命は4万時間です。一日の点灯時間は8時間だとすれば5000日、すなわち13.6年という計算になります。しかも、LEDの寿命の定義が「初期の明るさが70%に減衰するまでの時間」となっているので、13.5年過ぎた後でもまだまだ使い続けることができるのです。
しかし、照明デザイナーが手掛けるような大きな建築になってくると、一日の点灯時間がもっともっと長くなり、この話はまた別の問題を有することになるのです。本日はそんなLED時代の照明のメンテナンスについてお話したいと思います。
電球の点灯時間を考えよ
私が照明デザイナーとしての仕事を始めたころに先輩から教わったのは、“まずそこは一日だいたい何時間くらい電球を点灯させる空間なのか”を考えるということでした。1985年頃、当時は様々な物販店が都内でチェーン展開のお店をどんどん開店させるような勢いのある時代でした。そこで、若き照明デザイナーは、毎週1~2件くらいの頻度でオープンするチェーン店舗の照明を手掛けておりました。
私が担当していたのは靴店だったのですが、オープン時間は11時なので、その1時間前の10時に照明を点灯させます。そして、閉店が20時、その後商品の入れ替えや清掃をするので消灯する時刻は22時と算定します。まとめると、このお店の照明点灯時間は約12時間だろうと考えるのです。そうすると、白熱電球(シリカランプ)の寿命は約1000時間なので、3カ月くらいの頻度で電球を交換、つまりメンテナンスすることになるだろうと計算できる訳です。
さすがに3カ月に一度のランプ交換は厳しいな!・・・となれば、電球をハロゲンランプに変えると寿命が2倍となり半年に一回のランプ交換の計画となるわけです。ランプのコストは200円から2000円に跳ね上がるものの、メンテナンスの手間を考えるとハロゲンランプを光源としたほうが良いだろう・・・、ハロゲンランプは輝度の高いランプなので商品も魅力的に見せるでしょう・・・、そんな思考をしておりました。当時は半年に一度くらいの頻度で電球交換が発生しても構わない時代だった気がしますが、その後80年代後半には、徐々により寿命の長い光源が出てくるようになりました。
たとえば、白熱シリカランプに変わる光源として登場したコンパクト蛍光ランプは白熱よりも電気代が安く、寿命も6000時間と長く、大変優れたランプとして重宝がられました。またフィリップス社が開発したCDMランプに代表される小型メタルハライドランプは、90年代中盤より2010年ころまで、高発光効率、長寿命(10000時間)の光源として世界の照明をリードいたしました。 3カ月に一度のランプ交換がその10倍の寿命になったことで、2年に一度のメンテナンスになったことは皆大喜びしたものでした。
メンテナンスを考える必要性
寿命の話はさらに続きます。LED光源となり、寿命4万時間となったので、ランプ交換のタイミングは10年と考えられるようになりました。いわゆる店舗の光環境を考えると、10年経てば店舗の内装をリニューアルするだろうし、その間でランプ交換がないのは大変ありがたい話です。しかし、巨大な公共空間などでは、そんな頻度でリニューアルすることなどありません。むしろ建築を修繕する30年とか40年の時間の中で照明を考える必要があるのです。
高い吹き抜け空間の照明の場合、10年後にあの10メーター上の電球をどうやって交換すればいいんだ?となってしまいますから、こういった建築の場合、メンテナンス計画を電気設備設計者や建築設計者と共に考える必要があります。また、LEDそのものの寿命は長くとも、それを点灯させるためのトランスは、寿命が6~8年と言われているので、それらをメンテナンスのしやすい場所に集中させるような計画が不可欠です。
そんなことを考えながら照明を考える時代となっていますが、最近よく見るグラフが出てまいりました。それは「バスタブ曲線」と呼ばれる電気機器の故障率を示すグラフです。
あらゆる電気機器というのは、このようなバスタブの断面のような曲線を描いて、初期の故障率の高い時期を過ぎるとぐっとその割合が低くなり安定し、寿命末期が近づいたところでまたぐっと上がってくるらしいのです。こういったグラフを利用しながら、メンテナンスの計画書を立てていくのです。吹き抜けがあるようなところでは、天井の部分にキャットウォークと呼ばれるメンテナンス用通路を設け、最終的に電気工事会社やメンテナンス会社が先ほどの計画書をもとに管理していくといった具合です。
当たり前のことのようですが、LEDの時代になったからといって、喜んでばかりいられるわけではありません。やはりメンテナンスのことを考えてしっかりとした照明計画を行い、その光環境が長きにわたって良い効果を与え続けるように考えなければならないのです。
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