Vol.130|ポートランド旅行記・前編

アメリカの田舎で出会った電球の真髄
投稿日:2017,11,08
Illustration by Hiroyasu Shoji

遅めの夏休み

年に一度は休みを取ってどこかへ一人旅に・・・、というのが私の毎年恒例のイベントになっています。今年は、9月の中旬に少し遅めの夏休みをとって、アメリカ北西海岸のポートランドに行ってまいりました。何故、旅先にポートランドを選んだのかというと、今年、建築家の隈研吾さんが設計した日本庭園の文化センターが竣工したのでそれを見に行くというのが公の理由なのですが、もう一つ、ポートランドの近郊にウィラメットバレーという有名なワインの産地があることも私がこの街を今年の旅先に選定した裏の理由だったのです・・・。



ポートランドという街は・・・

ポートランドには消費税がなく、自然と都市がバランスよく共存していて“全米で最も住みやすい街”と言われていているそうです。街は日本ではさしずめ仙台をイメージすれば、いいかもしれません。中心部は、商業でにぎわい、しかし少し離れると豊かな自然を目の前にした住宅ソーンがあったりします。建物やお店も全てDIY、個人が自らの手で作っているような、そういったカルチャーが根付いたりします。また、日系人も多く、アメリカでの日本文化の橋渡しをするような都市にもなっていて、前述のポートランド日本庭園は元々、1963年に日系人が日本文化を伝えるためにつくったと聞きます。



ガイド本で見つけた気になるお店

そういった前情報を頭に入れつつ、ポートランドのガイド本をめくっていると、なんとこの街には電球専門店があるとの記述に目が留まりました。

電球専門店といえば、1980年代後半に初めてニューヨークに行ったときに、バルブショップと呼ばれる随分と洒落た電球専門店が街にたくさんあって驚かされました。空が濃青色に染まるころ、家路を急ぐ人々がその何とも美しいショーウィンドウの前に立ち止まっている姿を見て、この街にいかに照明文化が根付いているのかを確認したことを思いだしました。すでにその当時、モノではなく時間を楽しむ文化がニューヨークにはあったのです。

そして時はたち、いつしか、世界中から何となくバルブショップというものが消えてしまった気がしていましたが、ポートランドのガイドブック上に発見した小さな記事は、何よりも先にこの街についたら訪れなければならない場所だと思ったのです。



ライトバルブレディ(電球おばさん?)登場

ポートランドのバルブショップ photo by Hiroyasu Shoji

早速、ポートランドに着いた翌日に真っ先にそのお店を訪ねてみました。実際行ってみると、かつてのニューヨークにあったバルブショップとは趣が少し異なっていました。

お店のウィンドウにはいろんな特殊な電球が飾られていますが、その並べ方といったら、ごちゃごちゃ !!もう少し考えて展示しましょうよ !私がこの店でアルバイトをしているのなら、そう言って魅力的なディスプレイにするのになぁ・・・、そう考えながら中に入ると、中は中で倉庫のような感じなのです。

しかし、そこはしっかりと整理整頓されていて、あたかも図書館のような印象 !商品棚には、家庭用から専門業者向けのものまで、あらゆる種類の電球が取り揃えられています。特に印象的なのは、2017年LEDが世界的に席巻している時代に、なんと白熱電球の種類の豊富さです。かなりマニアックな電球がたくさん積み上げられていたのです。

店の中をウロウロしていると、40代くらいの男性の店員さんが近づいてきて、「好きなヤツがあったら、こうして点灯できるぜ!」とアドバイスしてくれました。なるほど・・・じゃお言葉に甘えてこれとこれとあれとそれ・・・を点けて見たりしました。かれこれ15分くらいでしょうか・・・よし、これらの電球を買って帰ろうと決めカゴに入れ、レジへと向かいました。

すると、そこには70代くらいの大きな女性店主がドーンと待ち構えていているではないですか!お客さんが「口金がEの26で細長いバルブの25ワットくらいの電球ありますか?」と尋ねると、「オーケー、3列目の棚を右に行った何段目あたり」と応じるのです。まるで図書館の司書のごとく、どの棚に何があるかをちゃんと把握していてキュレーションをしてくれます。

間をおいて、「この電球面白いですね・・・!」と声をかけてみました。すると、「よく見るとガラスに工夫がしてあるの気が付いたかい?」と返してきました。負けじと「薄く褐色のコーティングが施されてますね・・・」と答えると、OKと言って彼女から名刺をいただきました。何か入門試験にパスしたかのような少し変な気分!

肩書にはなんと、「Light Bulb Lady」、日本語にすると“電球おばさん”と言ったところでしょうか。聞くと40年くらい前からこの店を始めて、以来世界中から様々な電球を取り寄せてどんどん集まってこうなったと言います。また、太陽と電球を配したロゴマークには「His only rival」、つまり太陽の唯一のライバル(=電球)との文字が書かれていたり、はたまたお店のキャッチコピーに「Light up your life」と表現しているのを見ると、これは一歩踏み込んで、電球や照明の世界を愛しているのがわかりました。



電球専門店のおみやげ

電球おばさんとお話している時に、こんな質問をしてみました。

-最近、白熱電球の生産が終わってLEDの時代になっちゃったけど大丈夫?

すると、返ってきた返事は、なんで?電球はいつの時代も愛すべき電球じゃない?これを見てよと言って、私の顔と同じくらい大きなこの電球を出してきたのです。この電球、点灯させると電球色ですが、フィラメントは小さなLED素子で作られています。LEDの時代になったけれども、こういう電球もあるんだよと言うのです。

ここでは、アメリカではこういうことを楽しんでると、だいたい明るくするとか暗くするとかそんな話じゃないのですね。

・・・この秋ポートランドを訪ねてよかったなと感じました。地球上には電球や光が大好きな人種がいるものです。自分と同じ物事が好きだという人に触れて、ちょっとエネルギーをもらうことが出来ました。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




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