Vol.62│酉の市

眠りと明かり

投稿日:2014,11,13

 

11月になると…

早いもので今年も11月を迎えました。先日届いた葉書に、何と無くソワソワした気分になったものです。それは、今年の酉の市の開催を告知するものでした。この時節、ライトデザインでは熊手を求めに酉の市を訪れるのが恒例行事となっているのです。

酉の市は例年11月の「酉の日」に行われるイベントで、関東地方に多く所在する鷲神社(おおとりじんじゃ)をはじめ、日本各地の神社で行われているようです。5年前に仕事をご一緒した方から、「東海林さん、酉の市には行かないですか?良かったら一緒に行きましょう!」と誘われ、それ以降、毎年11月になると酉の市を訪れるようになりました。

 



酉の市とは?

調べてみると、酉の日は毎日に十干十二支を当てて定める日付け法で「酉」に当たる日のことで、つまり12日おきに巡ってくる訳です。最初の酉の日は「一の酉」、2度目は「二の酉」、また 年によっては 三の酉」もあるのです。

東京では浅草の鷲神社、新宿の花園神社、府中の大國魂神社が関東三大酉の市と言われており、私は始めて連れられて訪れた新宿・花園神社の店番号が一番という何とも縁起の良い店に通っているのですが、毎年11月前になると、「今年の酉の市は○日と○日です。」と、お知らせの葉書をいただけるようになりました。

もちろん、お店の宣伝も兼ねたダイレクトメールではあるのですが、これが届くと、そうか今年も年末シーズンの到来だなと、ちょっとワクワク、ソワソワしてしまいます。そして、出かけてみると、そこは、境内に設置されたたくさんの提灯にまるで光の壁のごとく明かりが灯り、裸電球が下げられた熊手商の露店が軒を連ねるので、辺りはとても華やかな雰囲気に包まれ、その賑わう人混みに年の瀬の到来を強く感じるのです。

 



熊手の買い方


ところで、熊手屋さんのビジネスシステムというのがちょっと独特で面白いので紹介しておきましょう。店先に並べられた熊手は小さなものから、かなり大きなものまで様々ですが、これはお金があるからと言っていきなりドーンと大きなものを買うのではなく、年々だんだんと大きいものにしていくのだそうです。だから、最初から大きいものを買ってしまうなんていうのは言語道断、良い子は決してやってはいけません。というか、小さいものからコツコツと大きくしてゆくのが醍醐味と言えるのかもしれません。

こういった慣習をキチンと理解し、ライトデザインでは最初の年は極めて控えめなサイズのものを購入し、その際に顧客登録をしたのです。すると、次の年の10月の終わり頃に熊手商さんから例の葉書が届くようになりました。当日、その葉書を持っていくと、「どうも、毎度ありがとうございます!ご商売の調子いかがですか?今年はどういたしましょう・・・」、なんていう会話からはじまり、ちょっとした経済動向や話題のニュースを楽しく交わすことになるのです。そして、いよいよ熊手を購入する段に入ります。

熊手の大きさは、あくまで縁起を担ぐものなので、今年は景気が悪かったから小さくて安いのを買おうという発想ではなく、来年に向けて頑張ろう!ということで少し大きく、また景気が良かった場合も来年はさらに良くなるようにと大きいものをいただくといった具合です。
こんなふうに熊手を選ぶわけですが、じゃあこれにしますと決まったら、縁起ものなので提示価格よりも少し心づけを含めて代金をお渡しすると、さらにオプショナル的な装飾品、たとえばカワイイ来年の干支の人形とか、家内安全札など、棒飾りを熊手に差し入れてくれるのです。これが、なかなか嬉しいのです。こうしてカスタム化された熊手を渡す段になると、お店の人が拍子木をもってきて、その場で三々七拍子で締めてくれます。

「来年も、商売繁盛、運気上昇、社内安全、良い歳でありますように! ヨーオ!」
 この一連の流れも含めて、酉の市はとてもミステリアスでワクワクする夜のイベントとなっているのです。

今年の一の酉の日は11月10日で、ちょうど過ぎてしまいましたが、二の酉は11月22日です。皆さんも、夕闇を背景に沢山の提灯が奉納され、集まってきた人の顔が、露店の軒先の吊り下げられた裸電球に照らされた幸せな空気感を楽しむために出かけてみてはいかがでしょうか? 日本の光の原風景、なかなか心に染み入りますよ。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。






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