Vol.68│LED普及の裏で

影から考える光の在り方
投稿日:2015,02,12
photo by lasta29

気になるニュース

私の週末の楽しみのひとつにホームセンターに出かけて時間を費やすというのがあります。仕事とは関係なく、何か面白いモノ、わくわくする商品が発売されていないかとチェックする楽しみを求めて出かけてゆくのですが、やはり電気部品や照明器具のコーナーでは念入りに商品をチェックしてしまいます。

最近、その照明コーナーで顕著な変化が起きています。それは、白熱電球の取り扱いが極端に減っているということです。白熱電球ばかりではありません。コンパクト蛍光ランプもかなり少なくなってきています。その代わりに増えてきているのは、いうまでもありません、そう、LED電球なのです。よーく見ると、価格もかなり安くなってまいりました。安いものだと一個700円くらいで購入できるのです。「電気代は、白熱電球の6分の1」なんて言うキャッチフレーズが書いてあると、もはや白熱電球を購入しようという動機を持った人でも「そろそろ家もLEDにしようか!」何ていうことが多くなるのも頷けます。

街を歩けば、LEDイルミネーションが輝き、家に帰れば電球色LED電球が食卓を照らす・・・、そんなLED旋風が巻き起こっています。しかし、そんな中、ちょっと気になるニュースを目にいたしました。それは、神戸で行われているライティングイベント「神戸ルミナリエ」に関するものでした。

 



LEDニーズが高まる中・・・

photo by Hyougushi

それは神戸新聞の記事で、「今年のルミナリエは優しい色? LEDから白熱電球へ」というタイトルが目に弾きました。初めてこの記事を目にした時に、「ルミナリエでは、まだ白熱電球をつかっていたんだ」と勘違いしてしまったほどに、驚きました。そうではなくて、改めて白熱電球を採用したのだというのです・・・。このニュースが流れた2014年秋と言えば、世間では、青色発光ダイオードの開発で3人の日本人がノーベル物理学賞を受賞したというニュースでもちきりだった頃です。まさに、これからはLED!というタイミングに、神戸ではLEDから白熱電球へ戻すというのです。何か世間の流れに逆行するようにも思えます。

そこで、詳しく読んでみると、神戸ルミナリエがスタートしたのは1995年12月で、この年の1月に起きた阪神・淡路大震災の鎮魂と復興を目的に始まったということでした。当時は、未だLEDの普及には及ばなかったので、神戸ルミナリエはもちろん白熱電球で行われていました。それから、ずっと同じスタイルで毎年繰り返されてきたようです。しかし、2011年3月11日に発生した東日本大震災が新たなスタイルに切り替えるキッカケとなりました。東日本大震災の後、全国の原子力発電所の操業停止による電力不足というなかで、消費電力の小さいLEDに切り替えてルミナリエを継続するということになったようです。世間からは、相当遅ればせながらのLED化となったのですが、記事によると、LEDによるライティングは色が鮮明で綺麗だと称賛する意見がある一方、白熱のぬくもりと比べ、冷たく感じるという意見が多くあったというのです。



照明に“温かみ”を!

photo by Hyougushi

そこで、開催から20年目の節目でもあった昨年2014年、第1回目と同じ「神戸 夢と希望」を掲げて当時に思いを巡らせてもらうべく、LEDから白熱電球に戻すことが検討されたのだそうです。そして、会期中の電力について関西電力に確認したところ、12月は電力供給量に10%の余裕があるということで決定に踏み切ったということでした。記事の最後は来場者のインタビュー、「温かく、優しい色は20年の節目に合う」という言葉で締めくくられていました。
 
そうすると2011年から3年間のみがLEDルミナリエということになるのですが、この記事を読みながら、ルミナリエでは、LEDも試したうえで、白熱電球の温かみこそがこのイベントの趣旨に合うものだという評価をしたことになるのです。20年前のあの日へ思いを馳せるときに、そこには温もりを感じさせてくれる白熱電球の光が欠かせないというのは十分理解できます。省エネタイプのLEDに簡単に置き換えられた時に、その光がなんとなくキラキラし過ぎていて軽いエンターテイメントのように見えてしまったのかもしれません。

技術的にはLEDにも温かみを感じさせる色彩の表現は可能ですが、白熱のイルミネーションは、可視光のみならず赤外線を含む光の演出です。目には見えない赤外線は、見る人の皮膚感覚に訴えかけることでしょう! 寒い冬の夜に灯されるあかり、その灯りのもとに沢山の人々が集うとき、白熱電球から発せられる光を受け止める感覚はLEDには変えることのできない心にも温もりを感じさせるのかもしれません。

人の心に訴えかける光は、ケースバイケース必ずしも白熱電球が良いとも言えませんが、「右向け右!」という号令を受けて皆が一斉にLEDという言葉を信じ、ホームセンターでLED電球を籠に入れる時代です。ここで改めて白熱電球が人に与えていた感覚に着目したというこのお話は、私の心を温めてくれたのです。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。






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