Vol.62│酉の市

眠りと明かり
投稿日:2014,11,27
画像出典:公式サイト

 

照明関係者必見の展覧会

いま東京では、照明のプロのみならず、照明好きには必見の展覧会が開催されています。その名もズバリ、「ヒカリ展」です! 開催されているのは、上野の国立科学博物館で、来年の2月22日までです。私は先月末の内覧会で、いち早くその展示を堪能させていただいたのですが、予想どおりにとても興味深い内容でした。これは、博物館が本腰を入れての“ヒカリ”の企画展なのです。面白くないはずはありません。今回は、この「ヒカリ展」の模様をレポートしてまいりましょう。

 



“光”の範囲の広さを再認識!

光に関する展覧会というと、実は10年ほど前に同じ国立科学博物館で開催されたことがありました。ただし、そのときはややアート寄りの内容だったように思えます。しかし、今回の展覧会では、ヒカリに対してより科学的なアプローチをしているのです。

たとえば、物理としてのヒカリ、もしくは地学としてのヒカリ、生物としてのヒカリ、私たち照明デザイナーが取り扱うヒカリというのは、おおむね人の暮らしの中のヒカリが主体で、そのほかの切り口は、あまり論議されることは多くありません。そういう意味では、照明のプロである照明デザイナーは、必ずしもヒカリの専門家ではないのかもしれません。ここは、少し謙虚に考えなければなりませんね!

さて、具体的な展示なのですが、大きく4つのテーマに分けられていました。まず、会場に入ると「光の科学」と題して、光とは何なのかの説明がされています。物理的にいうと、光は波、電磁波の一種で、私達が目にすることができる可視光線から、目には見えない赤外線や紫外線などは、通信用の電波、X線などと同じ電磁波というジャンルに属しているのです。また、ここでは光に係る科学史が紹介されています。

実は会期中の今年から来年にかけては、イスラム研究者のイブン・アル=ハイサムが光の研究をまとめたのが、ちょうど1000年前(1015年)にあたる年で、さらに450年前(1564年)にはオーロラの名付け親でもあるガリレオ・ガリレイが誕生、そして150年前(1865年)にはマクスウェルが「光は電磁波である」と発表した・・・、という光のメモリアルイヤーにあたるということなのだそうです。

次なるテーマは、「宇宙と光」です。太陽から発せられる光や宇宙線といった内容、そして、最新の電波望遠鏡で観測されるさまざまな波長の光や、星、オーロラといったものが紹介されていました。

 



光る物質と光らせた物質

画像出典:日刊アメーバニューズ

さらに、その後に続くのが、「地球と光」というテーマです。 地球上にあるあらゆる光る物質が紹介されていくのです。このへんからどんどん不思議な光の世界に入り込んでまいります・・・。光る鉱物、光る深海魚から光るキノコ、・・・思えば、このブログのバックナンバーにあの「光るには訳がある」でお話ししていたような、光る生命体や鉱石が紹介されておりました。

しかし、この展覧会の奥深いのは、これら光る性質を持っているものだけではなく、ノーベル化学賞を受賞した蛍光タンパク質という最新の研究よって生まれた、光る花や光るシルクといったものも展示されているのです。特に光るシルクというのは、従来のような布地に蛍光塗料を塗布したようなものとは異なり、蛍光タンパク質を応用したカイコが吐き出す光る絹色から作られているというから驚きです。

このカイコが作った光る繭玉はもちろん、カイコの成虫、つまり蛾も含め、すべての工程が展示されているのですが、絹糸だけではなく、虫そのものも光っており、特に眼が光っているので、なんだか昔の漫画に出てきそうな人造人間研究所のような感じで、ちょっとコワいような不思議な世界を垣間見ることができます。

 



光としての照明

そして、最後に来るテーマが「人と光」ということになります。ようやく、ここでやっと照明に関する内容が展開されます。灯りとしての光、新しい照明用光源、なじみのある展示になんだかほっとした気分となりました。

この展覧会を巡りながら、私は改めて照明のことを考えてみました。特に電気の照明のこと、1881年エジソンが白熱電球を実用化させてから、もしくは発電による電気がくまなく供給されるようになってから、私たちは、当たり前のようにスイッチを入れるといつでも光を手に入れることができるようになりました。そして、生活は便利になり、経済も発展しました。

人類のそんな幸せな姿を見ながら、これが最終的な光と人間との関係だろうか? そんな単純な疑問が出てきたのです。一方、光はもっと根源的なもので、植物にとっては光合成に不可欠なモノ、人にとってもサーカディアンリズムの大切なシグナルを与えるもの・・・、そう考えるとこれから先には、照明という光の切り口にももっと新しい解釈がないだろうか?いや、あるに違いない・・・。そんなわけで、光のソムリエにとっては力がみなぎってくる興味深い展覧会でございました。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。






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