投稿日:2014,12,11
凌空SOHO(上海) photo by Toshio Kaneko
上海、そして東京にて
11月下旬、私は上海を訪れておりました。目的は私が照明デザインを担当させて頂いた、とあるプロジェクトの最終確認を行い、写真を撮影するためのものでした。そのプロジェクトは、現代の建築業界の中ではかなり前衛的な存在として知られているバグダッド生まれのイギリス人女性建築家、ザハ・ハディド氏が設計した巨大オフィス建築です。写真からもわかるように、曲線や曲面をふんだんに使った未来的なデザインが特徴です。どう見ても周囲の建築とは一線を画しているアイコニックなこの建築には、賛否両論あるところですが、建築好きな方々にとって一度は「ザハ体験してみたい」と思わせるには十分な面白みと深みをもったものだと思います。
実は26年ほど前、私はこのザハ・ハディドさんに東京でお目にかかったことがありました。そんな縁があったことから、今、中国で建設されている彼女のプロジェクに照明デザイナーとして参画させていただいているのです。折しもちょうど今、東京オペラシティ・アートギャラリーでは12月23日まで、「ザハ・ハディド展」が開催されております。日本ではザハ・ハディドさん設計の新国立競技場建設も徐々に進行しています。そこで、今回はこのザハ・ハディドさんについてお話したいと思います。
“アンビルド(未建設)の女王”から、ブームの女王へ
ザハ・ハディドさんについて以前もお話しておりますが、ここで改めて彼女のことをレビューしてみましょう。まずは、1970年代に建築の世界に入り、1980年には独立し建築家として活動するも、そのあまりにも斬新なデザインは当時の技術では実現不可能でした。その彼女を建築家として有名にさせたのは、1982年の「香港ピーク」のコンペティションでした。しかし、そのデザインはあまりにも建設困難なものだったのです。それ以降も、長らくザハのデザインする建築は建設されることはありませんでした。
しかし、時は経ち、21世紀に入ると、突然ザハ建築が具現化されることとなりました。そのおもな理由は、3次元で設計するコンピューターソフトが開発されたことです。これまでの建築用CADソフトは、平面図、立面図、断面図・・・と2次元の図面を描くことしかできませんでした。ザハ建築の特徴のひとつである3次曲面は、このソフトでは取り扱うことができなかったのです。しかし、3次元設計ソフト、そしてそれだけではなく航空機の設計ソフトなどを統合し、ザハ建築実現のための支援ツールが揃ったことでいよいよ建設可能となり、そこから一気に世界各地でザハブームが沸き起こっています。
現在、世界各地で数百のプロジェクトが進行しているとも聞きます。折しも中国では経済成長という時代を迎えていることから、北京や広州、上海にザハ建築のプロジェクトが次々と進められた訳です。コンペにおいては連戦連勝、ザハ建築の唯一無二の個性を求めるディベロッパーが続出しているのは、中国の市場経済の状況がなせる業といえるかもしれませんね。
従来にこだわらないスタイル
GALAXY SOHO(北京) photo by Toshio Kaneko
10月には、私は北京を訪れていました。それは、今後新たに中国に建設される予定のザハ建築プロジェクトの打ち合わせの為だったのですが、中国のザハ・ハディド事務所は、まさに彼女の設計した「ギャラクシー(銀河)SOHO」という複合商業施設の中に構えられているのです。
ここは2年前に竣工した巨大オフィス建築で、照明デザインを私が担当させていただきました。しかし、竣工して以来ユーザーとして施設を使ってみるのは、この時が初めてでした。まさに初めてザハ建築を内側から体感したのでした。ハードな打ち合わせの合間の一息に窓辺を見渡してみると、窓がゆったりと曲線を描いているので、従来の平面的な窓よりもより広くパノラマのごとく視界が広がっているのです。またそれぞれの部屋からの景色にも違いがあることに気が付いたのです。
またトイレに行く際などは、フロア内の長い廊下を通っていくわけですが、この廊下もまたゆったりと曲がっており、そこを通って帰ってくるころには何だか気分がリフレッシュできているから不思議です。建築的合理性に基づいて直線の廊下だったとすれば、このような体験にはならなかったはず・・・ザハの建築は、ややもすればめだちたがり屋・・・などと評されることもありますが、体験して感じたのは、もっと純粋に人の感性に則したものなのだということです。
東京初台のオペラシティギャラリーで開催中のザハ展では、巨大スクリーンでザハ建築を疑似体験できるコーナーがあります。まずは、この年末あなたもぜひザハ建築を体験してみてはいかがですか?
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