Vol.92|危険な誘惑“レインボーカラー”

取り扱い注意の上級者ライティング
投稿日:2016,02,12
photo by Wan Shi

レインボーならば素敵なのか?

先日、オーストラリアにある世界最古の鍾乳洞・ジェノランケーブを見に行った方から、面白い話を聞きました。道のりが長い鍾乳洞内では見どころごとに美しくライティングされていたらしいのですが、最後の出口付近で赤やオレンジ、青、緑と、レインボーカラーのようなライティングがあり、大自然の生み出す不思議な世界を楽しんだ最後に出てくる演出は、蛇足であり、あまり良くなかったというのです。確かに世の中にはレインボーカラーでとにかくカラフルに彩った少し首をかしげてしまうような照明が多い気がします。そこで今回はレインボーカラーライティングについて考察してみることにいたしましょう。



衝撃を受けた80年代の照明

私の見解としては、レインボーが駄目かというと、決してそんなことはありません。今まで見てきた照明の中には、とても素敵にレインボーカラーを使った演出がありました。その一例が上記写真、シカゴのオヘア空港内の地下通路でした。

この照明を1980年初頭に雑誌で始めて見たときは、「こんな素敵な照明もあるんだ!照明デザインってかっこいい!」と感銘をうけたものです。その後10年ほどして、実際に見ることができました。乗り継ぎのために移動していた私の前に急に現れたこの虹色の空間、それは空港の本館と飛行機の搭乗口をつなぐ地下トンネルの通路の部分で、200メートルくらいの長い空間でした。その時には、すでにオヘア空港の虹色ライティングのことなどすっかり忘れていたのですが、突如として私の前に姿を現したのです。「ショージさん、ワタシのことをオボエテイマスカ?」そんな声が聞こえてきたかのような出会いでした。

初めて目のあたりにしたこの不思議な光のトンネルは、よーく見ると天井部分にネオン管が配置されており、他の天井と壁には色が変化する内照式のパネルとなっていました。通路の端からレインボーの七色を基調とした光が順々に走ってくるように光るのです。実際に見てみると、熱気が感じられるくらいにエネルギッシュなものでした。長いフライトを経てシカゴで乗り継ぐ旅客にとって、少しエネルギーをチャージしますね!・・・といった感じでしょうか?なかなかいいものなのです!! そして改めて「かっこいいじゃん!」と心の中で感想をいったのでした。



七色の内訳

photo by Kate Sumbler

そもそも、レインボーカラーというのは白い光の中に入っているスペクトルを分光して並べたものです。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の色が並んでいます。そして、大事なことはそれらが連続的に連なっていることなのです。このことがとてもアーティスティックな魅力を放ち、それが、人の心に響く、綺麗だなと思わせるチカラがあるのではないかと思うのです。地球上にある土や岩石、木や緑といった自然の色に対比し、鮮やかな色彩が並ぶ状況が人を魅了しないはずはありません。そして、空にかかる虹は、人に勇気や希望を与える良い出来事としてとらえられているのでしょう。



レインボー照明の掟

ところが、その虹の色を人間が意図的に作って使うとなかなか難しい・・・、使い方や表現がまずいと本当にヘンテコなものになってしまいます。わかりやすい例が、パチンコ屋さんのネオンなのでしょう。いったいどうしてあんなに派手派手しくデリカシーのない雰囲気になってしまうのでしょうか?人の心をとらえることのできる虹色とそうでない者との違いっていったい何なのでしょうか?

美しいと感じる虹色と、えげつなくなってしまう感じの虹色の違いとしては、まず色自体の使い方にあるのではないかと思います。虹色と言えばあの七色だ!とばかりに、観念的に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫を、色鉛筆よろしく原色で並べて出来ましたとしてしまうのが問題なのです。また、ムヤミヤタラに点滅をさせたり、光を走らせる・・・あぁ、なんてこった!・・・人の注目を引き付けるための禁じ手を重ねに重ね… 虹色はもっともっと「ありがたい」ものなのではなかったですか?

ところで、先日大きな文房具店で72色入りの色鉛筆セットを購入しました。57歳にして初めて手に入れた72色の色鉛筆の箱を開けてみていると、とても幸せな気持ちになったのですが、ここで気が付きました。青と緑の間には、True Blue, Non-Photo Blue ,Parrot Green, Grass Green, Apple Green, True Green, と連なっていました。そうなんですよ!青の隣は緑じゃないんです!その色と色の間にも微妙なグラデーションがあるのです。
虹は七色とされているのは、“七”という数字がハッピーな感じだからというところもある気がしますが、しかし、人の感動を生む本当の虹は、実は7色ではなく、72色いや連続する無数の諧調によってできているのです。

最後に、私が体験した小さな実験の話をいたしましょう。それは照明の実験室での出来事でした。舞台演出用の色を変えることのできるスポットライトを使って、赤から青にゆっくりと変化をさせたのです。青を100%→0%に減らすと同時に赤を0%→100%に増やすという実験をしてみると、途中は赤でもない青でもない微妙な色合いが出て来るのです。それは紫と言うよりも、青だと思っていたのに気づいたら赤だったという不思議な感覚です。赤と青は連続し、そこには区別はないという体験でした。人は何かと物事を区別して理解したい動物なのでしょうが、連続し、区別ができないあいまいな状況に心を動かされるのではないでしょうか?虹色にはそんな魔力があるのかもしれませんね。

 

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




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