投稿日:2016,04,14
photo by Toshio Kaneko
銀座の新たなランドマーク
こんにちは、東海林弘靖です。今回は、去る3月31日に銀座数寄屋橋交差点角にオープンした「東急プラザ銀座」の外装照明について、お話させていただきたいと思います。この建物の設計・建設は5年の月日をかけてとても丁寧に進められていたもので、その間のプロジェクト名は、銀座の5丁目に位置することから通称G5プロジェクトと呼ばれておりました。
このブログをよく読んでいるという方はお気づきかもしれませんが、私の事務所であるLIGHTDESIGN INC.も創業以来銀座に居を置いており、G5の現場までは徒歩3分と、とても近い立地にあります。また、今まで自主的に銀座の裏路地を含めてくまなく街の調査(昼も夜も)を行ってきていますので、地元に居する視点というのを大切に考えながら進めたプロジェクトでもあったのです。
建物と明るさに隠された法則
さて、そんな“銀座”においての照明デザインを考える上で、まず改めて銀座の光というものを考える必要があると思い、あらたな観点で夜間の光環境の調査を行いました。
それは銀座の中心とも言える、中央通りに立ち並ぶ建物一つ一つのファサードの明るさと面積を測るというものでした。中央通りには大きな百貨店から小さな雑居ビルまで、さまざまなサイズの建物が並んでおり、明るさも煌々と明るいものから控え目のものまで様々です。一見バラバラにも見える夜の銀座のようなのですが、実はある一定の法則を無意識のうち(?)に守っていることが分かったのです。
よくよく観察してみると、明るい建築のファサードとそんなに明るくない建築のファサードがありますが、明るいものは比較的間口の狭い(小さな)建築で、逆にそんなに明るくないものは、間口の広い建築だという傾向があったのです。そこで、それぞれの明るさの平均値とファサードの面積を調べてみると、大変ユニークな法則を発見したのです。
それぞれの建物の明るさである輝度に面積を掛けた数値(輝度×面積)を比較してみると、なんとそれぞれがほとんど一定なのです。つまり、小さな建物ほど明るく光り、大きな建物ほど控え目の明るさになっているという訳です。実際には、小さな雑居ビルはたいてい屋上に広告看板がついており、それが強い照明器具で照らされていたり、最近ではLEDを光源とした内照式の広告が付いています。
一方、大きな建物はそのような看板はなく、建物全体を使ってもう少し優雅に表現しようという姿勢が見られます。例えば、カラーライティングをファサード全面に施している3丁目の百貨店松屋銀座で見てみると、実測した輝度は極めて低いものでした。大きな力を持つ者はそのことをひけらかすのではなく、むしろ控えめに表現することで、銀座の街の均衡をとっているかのようにも感じられるのです。それは、まるで銀座の家訓とでもいえるもののようにも感じます。
もちろんこれは銀座通りのみの話ではありません。銀座エリア全般にいえることなのです。銀座を全体で見ると、長い年月を掛けて、そんな暗黙のルールが出来ている街だということがわかったのです。
陰翳のデザイン
photo by Toshio Kaneko
今回のプロジェクトでは、先ほどの調査結果からわかった銀座的コンセンサスを得て進められました。東急プラザ銀座は大きな建物ですから、むやみにピカピカさせては銀座の美意識に合いません。品位をもって穏やかに輝くことがよいのだというコンセンサスをかなり早いうちに得ることができました。事業者、建築設計者とも共有したうえでこのプロジェクトは進められました。
また、もう一つ成熟した光の表現が加えられました。それは、「陰翳のデザイン」です。この建物の照明設備としては、ファサード全体をすべて均質な明るさで点灯させることは可能なのですが、隅から隅までしっかりと明るくしてはいけません。いやそうしないほうが俄然素敵に見えるのです。この建物は大きいとは言え、宇宙のように巨大という訳ではないのです。地上11階建ての高さのそれを端まで光らせてしまうと建物がグッと強く浮かび上がって実際の「大きさ」がよくわかってしまうのです。それは威圧的と受け止められるかもしれないし、一方で、大空を仰ぎ見れば小さなもののように感じられるかもしれません。
しかし、建物の端の照明を暗くして夜空の闇に同化させると、つまり陰翳をもって光を配置すれば、夜空に溶け込んで、実際よりもっと高く、広くその建物が伸びているかのように想像させるのです。そして光はその建物のごく一部に与えられ、しかも生命体のようにゆったりと明暗をかもしだしています。そうして出来上がった東急プラザ銀座は、大きな建物ゆえに、デリカシーをもって少し控え目に、銀座家訓に則った品格ある佇まいの照明デザインに仕上がりました。
この存在感こそ、今回のプロジェクトの大きな成果であり、ようやく20世紀型のこれ見よがしなライトアップの饗宴を超えて新しい光の在り方が完成したと考えています。今回、銀座という街の解釈から、照明デザイナーだけでなく、事業者や設計者も方々にもこの感覚を共有していただいて「光の器」が無事に竣工を迎えたのでした。
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