Vol.94|照明も充電生活

ライフスタイルから始まる住宅照明
投稿日:2016,03,10
photo by oliver.dodd

2年前のブログより

このブログで以前、「アンプラングドなあかり」と題して電源コードから解放された照明について書いたことがありました。アンプラグド(unpluged)という英語は、プラグをしない、つまり電源プラグを繋いでいないという意味で、アメリカには、この言葉を題名にしたMTVの音楽番組があります。これはアコースティックギターやピアノなど、電気を必要としない楽器で演奏するスタイルのライブ番組です。エレキギターやシンセサイザーで作りこまれた音楽ではなく、あくまでシンプルで自然な音を大切に様々なアーティストがこのコンセプトのもとに音楽を披露するライブ番組なのです。

アンプラグドという「原点に立ち戻ったようなスタンス」を感じる響きに魅力を感じて、この言葉から連想するエピソードや照明器具をご紹介したのが当時のブログだったのですが、あれから2年が経ち、世の中や私たちの感覚にも変化が起きているようなので、ここで改めて同じアンプラグドというテーマで考えてみたいと思います。



「プラグをしない」とは?

改めて、アンプラングドという言葉から発想されるのは電気を必要としないというイメージです。電気を必要としないと言えば、まずはローソクやオイルランプなどの明かりです。ほんの130年前までは電気の照明などなかったのですから、すべてがアンプラグドだったわけですが・・・それまでは、火を灯すことで家の中や夜道の明かりとしていましたし、もちろん現代も雰囲気のある暖かい光として様々なところで活躍しています。

それから、次にアンプラングドという言葉からメージするものは、まずはソーラー発電を利用した照明、そしてもう一つは充電して点灯させる照明のことです。前者は、電力会社の送電線からの供給を得ない電気で照明を点灯させている状況で、「オフグリッド照明」と呼ばれているシステムです。後者は、電気エネルギーの供給源としては、電力会社から供給される電気を使っているものの、実際に点灯する時にはプラグをコンセントに差し込んでいないというものです。そして、気が付けば、この充電式アンプラグドの照明が最近随分と多くなってきたように思えるのです。



意外に多い充電式

誰もが持っている携帯電話やスマートフォン、それからタブレットやノートPC、またデジタルカメラなど、これらは全て充電式で電気をチャージして、使うときは電源コードから解放された状態で使うスタイルが基本です。特にスマートフォンに至っては、毎日使うものですから充電のサイクルも頻繁です。大体の人は日中使って、夜寝ている間に充電するパターンでしょう。この毎日のルーティンに慣れたのか、スマートフォン以外の電気製品についても充電するという行為にすんなり馴染んだように感じます。

そう言えば、身の周りを見渡せば充電式ものがたくさん溢れています。充電式の掃除機、アイロン、小物キッチン家電、洗面所では電気シェーバーや電動歯ブラシなどなど・・・、そして、照明に関しても同様で、充電式のアイテムは増えています。充電式の行燈やスタンドなど何処へでも持ち運べる利便性からの要求でしょうが、これには、LEDの登場が一躍買ったのかもしれません。というのは、LEDは直流の電源、つまり電池で点灯するので、電灯線からの交流電源で点灯させるときに必要なトランスが不要なのです。充電池×LEDの相性が良いことから、充電式照明器具の普及に拍車がかかったのかもしれません。最近は、USB充電式LEDライトが普及しているようです。そんなUSBという電源インフラの変化も私たちの充電生活スタイルを気軽なものにしてくれていたのかもしれません。

photo by Intel Free Press



ネオ江戸時代スタイル

こうして充電式のライトが普及すると、ちょっと江戸時代に戻ったような照明の感覚になります・・・・。つまり充電した電池の残量を気にしながら、大切に使って、なくなったら充電するという行為は、ローソクやオイルを大切に使う感覚に似ていると思うのです。充電するという行為が日常的になって、明かりをケアしながら使うというのはヒューマンでとっても好感が持てます。オフグリッドな生活は誰もがすぐに始められなくても、明かりへのケアの意識を向けることは、“ネオ江戸時代スタイル”こと充電照明生活で始めることができます。

壁のスイッチを入れればいつでも天井のシーリングライトが煌々と点灯して部屋の隅々まで照らしてしまう暮らしよりも、江戸時代に人々がローソクや油の残量を気にしながらあかりを灯す生活のように、私たちも「電池が後どれくらいあるかな?もう充電したほうがいいかな?」といったケアをする生活のほうが、地球にやさしい、そして人にも優しい・・・つまり地球上に生きているって感じがすると思うのですが、皆さんはどう感じるでしょうか?

続きを閉じる



 

 



PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




Vol.91
Vol.91 光のフィードバックデザイン

Vol.92
Vol.92 危険な誘惑“レインボーカラー”

Vol.93
Vol.93 照明はライフスタイルで決めたい!

Vol.94
Vol.94 照明も充電生活

Vol.95
Vol.95 二十四節気の色鉛筆

Vol.96
Vol.96 銀座の光の品格

Vol.97
Vol.97 ザハ・ハディドさんを偲ぶ

Vol.98
Vol.98 眠る明かり

Vol.99
Vol.99「Light+Building 2016」レポート

Vol.100
Vol.100 照明産業と習い事?


過去の記事

最新の記事一覧に戻る






 





Copyrights (C) 2012 LIGHTDESIGN INC. All Rights Reserved.