投稿日:2016,11.24
photo by Hiroyasu Shoji
稀なこと
こんにちは、東海林弘靖です。ちょうど先週、11月14日は月が地球に最接近するという、超特大スーパームーンの日でした。これは1948年以来の68年ぶりの希少な現象だったのですが、残念ながら関東地方は雲に覆われていたために、実際に見ることはできず、テレビやインターネットのニュース等で目にした方もいらっしゃるかもしれませんね。
ところで、こういった稀な出来事のことを英語の慣用句では、「once in a blue moon」と表現するのだそうです。月の光は太陽の反射光なので、大抵黄色いものですが、それが青く見えるときというのは一体どういう現象なのでしょうか?
希少な光の体験
ブルームーンは、火山の噴火や隕石が落下した時に発生するガスや塵などの化学物質の影響で月が青く見える現象のことで、非常に珍しい現象ということから、「とても稀なこと」とか「たまに」を表す慣用句として、「once in a blue moon」という表現になったと言われています。また、「稀に」という意味が転じて、一カ月の中で2回満月が起きるときの月もブルームーンと表現したりもするようです。
こういった希少な光の現象というのは、自然界で繰り広げられていますが、私のこれまでの経験のなかで、唯一の人工的な希少な光としては、香港のホテルの車寄せを囲む竹垣に密度の極めて高いクリスマスイルミネーションを配したものが、入ってくる黒塗りの車のボディに映り込んで、まるで光の苔が生えたかのように美しく浮かび上がった光景でした。
車が動くとともに車に映り込んだ光がポロポロとこぼれていくように見えています。これは凄いなぁと何枚もシャッターを切り続けたことを覚えています。これは印象に残る力強い光の現象でしたが、人工のものではこれを越える体験はいまだにありません。人間は、まだまだ光の現象をデザインするに至っていないのではないかとすら思えてきます。
photo by Hiroyasu Shoji
自然界における光の体験
一方、自然の中にはやっぱり圧倒的に凄いもの、この世のものとは思えないほど美しいものがたくさんあります。最近では、一番上のタイトル写真の光景が私の中での希少な光の体験でした。
これは、昨年ヨーロッパの照明器具を製造する工場視察に行った折、イタリアのマルケ州レカナッティという町で撮影した写真です。この視察旅行中、私は健康維持のために、朝早く起きて街の中をジョギングするようにしておりました。秋深まるイタリア、6時半くらいに外に出ると、まだ辺りは真っ暗でした。そんな夜が明けないうちから走っているうちに、丘にたどり着いて目にしたのがこの写真の朝陽の光景でした。
実は私は夕日やブルーモーメントを目にする機会は多くても、あまり朝日には馴染みがなかったのでしょう。夕陽の場合、次第に太陽が地平線に姿を隠し光量が少なくなるという現象ですが、朝陽はその逆で、辺りが次第に明るくなってゆくのですが、光が出てくると、一気にグワーッと加速度を増すように明るくなってゆくのです。雲の切れ間から差し込む光芒も何か新しい命の誕生すら予感させてくれます。それを見ていたら、まるでどんどん良い方向に変化していく、希望の光のように感じたのです。
一日をスタートさせる力強さ
それは、朝の太陽の光が空に炸裂して、夜は終わり!という感じで、いい方向に変わっていくイメージです。そういえば、英語で夜明けのことをデイブレイク(daybreak)と言うことを思い出しました。
以前、私が独立する前に所属していた照明デザイン事務所で朝礼を行うのに、「朝礼」という言葉が新しく生まれたばかりの事務所には似つかわしくないといって、その時たまたま来日していたアメリカの照明デザイナーの方に相談したところ、“デイブレイクミーティング”というのはどうか?とい提案をもらったことがありました。そのときはあまり意識していませんでしたが、デイ(1日)をブレイクする=打ち破るという前向きなイメージはまさに、朝陽の力強さ、パァーン!と日光が放射するイメージで、「ブレイク」という言葉がぴったりです。
イタリア視察旅行で出会った朝陽は、偶然地平線に雲の多い気象条件と、見晴らしの良い丘の上というような条件があって、これこそが「希望につながる光」と感じられる光の現象に出会えた瞬間だったのです。
私たち人間もそのような光の現象に学び、デザインに応用していきたいと考える、まさにデイブレイクな旅となりました。
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