Vol.118|ドイツ魂と道路照明

機能的な美しさは目的ではなく、結果
投稿日:2017,03,11
photo by Sebastian Wochnik

街の光の美しさ

昨年、話題となったアニメーション映画「君の名は。」ですが、このブログでも取り上げたことがありました。

その後、得た情報によると、この映画を手掛けている新海誠監督は、アニメーションの中での光の描写にもこだわっているということで、街にある信号機の光でさえ美しく描きたい・・・そうインタビューで答えているのです。

街にある何気ない照明の中に美を見出す感覚・・・、そんな感覚を私も30年ほど前にドイツの田舎街で体験したことを思い出しました。



ドイツの地方都市

ハノーバーメッセ会場
photo by Patrick

それは、ドイツの北方にあるハノーバーという街を訪れた時のことです。そこでは、世界最大の産業見本市である「ハノーバーメッセ」が開催されていて、それに参加するために、この街へやってきたのでした。

この見本市は戦後のドイツ経済復興の一環として1947年から毎年行われており、世界100ヵ国から5,000社が出展し、現在では来場者数は20万人以上を誇る規模になっています。私が行った頃は、見本市の一番の見どころが照明見本市でした。ちなみにこのブログでもレポートしているフランクフルトの照明見本市「Light+Building(ライトアンドビルディング)」は、後にハノーバーメッセから照明部分が分離されたものなのです。

さて、このハノーバーという街は、ベルリンやフランクフルトのような大都市ではないドイツの地方都市です。その街に世界中から何十万人という人が集まるわけですから、街の中心部のホテルなどすぐに一杯となってしまいます。私は仕方なく、車で40分も走らなければならない、かなり辺鄙のホテルにとまることになりました。

その日ハノーバー駅へは夜に到着し、ホテルまではタクシーで移動しておりました。当時はスマホもグーグルマップもありませんから、タクシーが走っている位置もわからず、本当にこれで合っているのだろうか・・・と不安な気持ちで窓からずっと外を眺めていたのを覚えています。

外を見ると、真っ暗闇に、ただひたすら続くその幹線道路には、道路照明がタッ、タッ、タッ・・・と、きっかり40メートルピッチで設置されている・・・、まるでウルトラマンの目のような形のハイウェイ灯の光が道路の上の方に綺麗に点々、点々・・・とずうっと先まで連なっているのです。その時は、それを見て人の手によって作られた光の美しさを、あぁ綺麗だなぁと思い、その光に旅の疲れを癒されつつホテルに到着したのでした。



朝の道で気づいたのは・・・

翌日、ホテルからハノーバーメッセの見本市会場までホテルの送迎バスで行くことになりました。恐らく距離にして30キロか40キロくらいの移動です。バスが発車すると、また昨日と同じように窓から外を眺めていたのですが、面白いことに気づきました。

夜は暗いので道路照明の光源部分だけしか見えなかったのが、日中だと照明が付いている柱から道路のレーンまでの全貌を見ることができました。やはり、それは40メートルピッチきっかりで立っているのですが、よく見るとその柱が設置されているふもとの道路は、ときどき路肩が膨らんでレーンの幅が余分にとってあるのです。きっと、緊急時の駐車帯かバス停用なのでしょうが、とにかく道路灯が設置されている道路はまっすぐという条件ではありません。

しかし、照明の光源はまっすぐのラインを保っています。それは路肩などで道が膨らんでいるところでは、その道路灯のポール部分の首がグーンと長く伸びていて、きちんと同じライン状に灯部が来るよう揃えられていたのです。このドイツ魂には驚愕いたしました。



ドイツ人的こだわりに感動

日本にも道路照明の設置基準というのがあり、色々なルールが設けられています。たとえば、高速道路では、夜間に行く先の道路がどのように曲がっているのかを先行して伝えるために、道路照明の灯部は少し輝度をもたせた方が良い・・・などと書かれています。

ドイツでも同じように道路灯の発光部が輝度をもち、タタタタと連なっていくのも、その先の道路がどのように左右にうねっていくのかを見通す役割を担っているのです。その事を、ドイツ人は生真面目にしっかりと踏襲したんだなと実感いたしました。論理的に実直に、あるいは妥協せずに意志を貫くという強さが伝わってきて、何となく面目ないような気持ちにさえなったのです。日本人の考えには、良い意味でも悪い意味でも「塩梅」という考え方があって、・・・まぁそこまではやらなくてもいいんじゃない・・・といった妥協して上手にまとめることが肝心!という考えがあるからです。ドイツ魂というのは、とにかく厳格に貫くことが優先されるのでしょう。

この非常に厳格なドイツらしい道路照明は、照明デザイナーとして一つ考えさせられるものがあります。それは、あくまでも照明のコンセプトを徹頭徹尾貫いて照明が完成している、そしてその揺るがぬ追及の結果として、えも言われぬ美しい光が生み出されているという理想的なシナリオが見えているからなのです。

美しくするのが目的ではなくて、コンセプトを貫く技術者のこだわり、あるいは厳格な安全性へのこだわりが美しさを導いている・・・とわかったときにまた感動が生まれたのでした。

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PROFILE
東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

1958年生まれ。工学院大学・大学院建築学専攻修士課程修了。
光と建築空間との関係に興味を持ち、建築デザインから照明デザインの道に入る。1990年より地球上の感動的な光と出会うために世界中を探索調査、アラスカのオーロラからサハラ砂漠の月夜など自然の美しい光を取材し続けている。2000年に有限会社ライトデザインを銀座に設立。超高層建築のファサードから美術館、図書館、商業施設、レストラン・バーなどの飲食空間まで幅広い光のデザインを行っている。光に関わる楽しいことには何でも挑戦! を信条に、日本初の試みであるL J (Light Jockey)のようなパフォーマンスにも実験的に取り組んでいる。




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