上質な暮らしをテーマにしたのではないほうの光の話題
こんにちは、東海林弘靖です。照明デザインの世界では、上質な暮らしをテーマにした光の話題が語られることが多いと思います。一方、日本の繁華街にも見られるアジアのカオス的なネオンについてはあまり品がよろしくない、どちらかと言えば避けておきたい・・・というようなスタンスがとられる傾向にあります。
しかし、そういったエネルギーに満ち溢れる毒々しい光環境は、世界中にたくさんあって、多くの人がそこに集まり人生の時間を過ごしているのも事実なのです。いったい、そこにはどんなパワーや魅力が隠されているのか? どうして人はそんな賑やかで派手な光に吸い寄せられるのか? そんなことを考えていると、つい最近、友人から聞いた“もらって困るお土産品”の話が思いおこされたのです。
使い道のわからない置物
その“もらって困るお土産品”とは、土台の部分にLEDライトが内蔵されていて、スイッチを入れると赤から、ピンク、オレンジ、黄色、みどりに青・・・といった具合にカラフルに変化する光を発して、その光を受け止める上部には観光名所などの彫刻が内部にレーザーで施されているガラスの置物だったそうです。そして、その友人は贈り主にありがとうと口では言ったものの、心の奥では「イラナイものをもらってしまった・・・」とつぶやいて、部屋の片隅に放置していたのです。ところが、そのお土産がしばらくたって、とても役立ったのだそうです。
それは突然の停電に見舞われたときのこと、携帯電話のライトやLEDランタンを点けるも、あまり明るくはないのと、演色性が悪いのか、時間が長引くにつれ気が滅入ってきてしまったそうです。そんな時、このお土産品の存在を思いだし、LEDライトのスイッチを入れたら、カラフルで動きのある光が部屋に映し出されると、ちょっぴり気分が上がって不安感が少し解消されたという話でした。
ジャンクな光のパワー
ラスベガスのエンターテインメント的な光
photo by LIGHTDESIGN INC.
エンターテインメント的な光で心がハッピーになるという側面は確かにあるのかもしれません。そして、その光があまり品格の良いものではなかったとしても、緊急事態の環境では、その力はむしろ大きなものがあるのでしょう。
そういえば、私も似たような経験をしたことを思い出しました。それはずーっと気分が落ち込んでいた30代後半くらいのある日の事でした。上海に一人で出張に出かけた私は、相変わらず悶々とした気持ちをかかえておりました。仕事が終了し夜になっても気持ちはいっこうに晴れなかったので、ホテルを出て上海の街をあてもなく歩いていたのです。
2時間くらい歩いたのかもしれません。中国的なネオンがカオスのようにギラギラ光る街を歩き続けていると、私の心がスーッと軽くなってきたではありませんか。さっきまでの重苦しい溜息はどこかに消えて、不思議なことにワクワクした気分に変化したのです・・・。
後に冷静に分析してみると、あのカオス的な光が私に作用し元気を与えてくれたのに違いないと考えました。自分が目指していた光のデザインとは程遠い、もう何がなんだかわからないようなガチャガチャした光のカオスなのですが、そこには遥かなエネルギーが渦巻いていて、人はやっぱりそういうところに身をおいてみると、案外元気になるものだ! そう理解したのです。一見、毒のような不用に思える光でも、使い方によっては薬になるのだと教えられた体験でした。
人にはアドレナリンも必要
これらの光は、例えていうなら「ジャンクフード」に近いのかもしれません。時折、あの世界中に展開するハンバーガーチェーンのハンバーガーが無性に食べたくなったり、コーラが飲みたくなる、あの感覚です。
私たちの生活には上質な光でゆったりリラックスする時間だけではないのでしょう。
ギラギラしたカオスな光の洪水は、実は豊かな光のスペクトルに溢れていて、それら多彩な光線が刺激的で、それらは脳にアドレナリンの分泌を促し、気分を上げてくれる・・・、そんな光も、時に必要なのでしょう。
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